この日のお昼は蛎殻町すぎたさんへ。
馬喰横山の都寿司さんが昨年末にこちらに移転してきて、店名をご主人のお名前に改められました。
今回はいつもお世話になっているAさんが執念で獲得した予約席に、僕をお誘いくださったのですよ!
Aさん優しい!Aさんかっこいい!Aさん最高!
移転再オープンから1年近くが経過していますが、まだ新しい木の香りがします。
ちょっと鼻をツンと突く、どこか甘く、温かい香り。
土日は11:00~、13:30~、18:00~の3回転。
前のグループが出るまで待つ必要がありましたが、以前の店舗よりちょっとスペースが広くなった店内で待つことができました。
ドキドキとワクワク、緊張と興奮。
ご主人が一組ごとにご挨拶に回って来られます。
よろしくお願いします。
まめに替えてくださるお湯呑にも注目です。
寿司は屋台で食べるのが一般的だった江戸時代に、店主ひとりで営業するために途中でお茶を替えずに済む大きな湯呑みを使うようになったのだとか。
ついでに、箸もおしぼりもなく、江戸っ子は手でちょいっとつまんで食べて、帰り際口の広い湯呑みをフィンガーボウルにして指を洗ったという話も聞いたことがあります。
大きな湯呑みを使うのはお寿司の流れ、こだわった器を次々繰り出すのは日本料理の流れでしょうかねえ。
スタートは銀杏で季節感のジャブ。
もう9月ですねえ。
薄皮の苦味が独特。
醤油とわさびが出たら、ここからツマミが始まります。
ツブ貝。
北海道の様似のものだとか。
初めて聞く地名です。
少し塩で〆てあると仰っていたと思います。
まずかなり強い歯応えでブチッと歯が入って、そこからまっすぐにスーッと進む感じ。
さほど水分はないのですけど、すごく甘みが広がります。
鰹漬け。
こちらも少し塩をして水分を抜いてから、漬けに。
乗せてあるのは生姜と浅葱。
漬けにした効果も相俟ってネロネロに絡む濃厚な食感、味わいですが、ほんのり鰹の香りが抜けます。
わりと薄めのスライスにも見えましたが、かなりインパクトがありました。
鰯巻き。
大葉、浅葱、ガリ、鰯。
楽しみにしていたので、ご主人が鰯を準備し始めたときから鰯に穴が開くほど見入っていました。
もちろんご主人の腕ですから、鰯に穴が開くことはなく完成しましたよ。
ほんのり湿った海苔の食感、そこから肉厚な鰯、そして薬味。
食感良し、香り良し、味わい良し。
軽く〆てある鰯は脂がやや白んで固まった感じの融け方をして、それがまたちょっと意外性があるのですよね。
お茶を替えていただきまして。
平貝の西京焼き。
パッと見るとたくあんのように見えます。
よく見てもたくあんのように見えます。
水分をしっかり抜いてギュギュギュッと引き締まった、絞り上げたような食感。
そこから噛むたび噛むたび味と香りが出てくる出てくる・・・
いつまで噛んでも味がなくなることがありません。
メジャーリーガーに渡したらこれ一切れだけで3試合くらい戦えそう。
貝の香りや甘みも残しつつ、ポークにも似た力強さも兼ね備えた旨み。
そして何といっても西京味噌の香りがもう・・・
興奮のあまり一瞬息を止めて、鼻からフーッと息を抜いたらその瞬間の香りが凄まじくて思わず天を仰ぎました。
端から見たらすごく落ち着かない人だったと思います。
鮟肝と筋子。
鮟肝は甘めに煮て、筋子は味噌漬けなのがこちらの定番。
僕は遠慮しましたが、他のお客さんにはお猪口のお酒(あらまさ?)が添えられていました。
わさびがいい仕事してるのはもちろんですけど、それでなくとも軽い印象を受けるのがちょっと不思議。
鮟肝も間違いなくクリーミーなのですけど、口の中でほろっと崩れて消えます。
筋子の脂が濃い!・・・の延長線上で気付くと味噌にすり替わっている一体感。
皮の固さに個体差があって弾けるのにタイムラグがあるので、思わぬ瞬間に味わいが増して油断なりません。
こういう波のある不均一な味わいというのもひとつ大きな魅力になるのですよね。
ツマミの最後は焼物、今回はのどぐろでした。
多分尾に近い方ですが、厚みはないものの広く取ってある分皮目が多くてありがたかったです。
水分はある程度抜いてありそうですが、かなり脂が強くジューシーな仕上がり。
モノがいいのはもちろんですけど、焼き方が個人的には好みでした。
はしもとさんの方は塩が強めでしっかり水分を抜いてあって、お酒向きの仕上がりな印象なのですよね。
脂が噴き出してきたので思わず写真を。
上手く脂を写せませんでしたが、僕の興奮している様子と臨場感をお楽しみください。
もう少しツマミを食べるか握りに移るか確認されましたが、握りをお願いすることにします。
握りが始まるタイミングでガリが登場。
はしもとさんに比べると甘さ控えめでキリッとした塩の効いた味わい。
お隣のAさんが凄まじい勢いで食べ切るので、3回目のおかわりのときに3倍くらいの量盛られてきていて面白かったのはここだけの話にしておいてください。
新子からスタート。
透明感のある食感、新子の「魚」としての味がここまで明確に感じられたのは初めてで新たな新子観を見せられた感じ。
初訪問時に「小肌の握り」が美味しいということを初めて知った感覚に近かったかもしれません。
真鯛。
脂、旨み、香りのバランスのいい一貫。
皮目を残してくださるのがいいですよねえ。
ほっき。
味のバランスでいうとかなり甘み寄り。
生よりもやわらかく、生よりも力強い食感。
さわら。
脂は薄めですが、そこに隠れてちょこっと頭を出す程度の藁の香りが絶妙。
ふんわりとやわらか。
握りもこの辺りから後半戦。
新いか。
この時期だけいただけるスミイカの子ども。
パチンと弾ける、その一瞬に膨らんで舌全体を包み込みネットリととろけるという瞬間芸。
精神と時の部屋に入ってひとりだけ幸福な時間を過ごして帰ってきたような、時空のズレをも感じるような食感。
まぐろ背トロ。
一応産地を確認したら戸井とのことでした。
酸味のようなものは感じず、ほんのり甘みを備えた旨みがすーっと長めに残る脂の味わい。
冬のまぐろに比べるとパンチは弱いかもしれませんが、この味わいは夏しか食べられませんからね。
これはこれとして十分に食べる価値のある夏のネタだと思います。
鯵。
ブリッとしっかりめの食感が意外。
肉厚で味の濃い、香りの強い鯵でした。
まぐろ、鯵と寿司らしい味わいが続きます。
ちょっと湯呑みの趣も変わりまして。
カウンターの向こうで鮮やかな紅白が見えまして、次に登場したのは・・・
海老。
頭から尾までじっくり観察して飽きることのない美しい火入れ。
ザクッザクッと歯切れのいい食感と同時に炸裂する香りは、寿司店の海老としては正攻法ですが頭ひとつ抜けた仕上がりなのですよね。
素晴らしい!
金目鯛。
皮目を炙って、ちょこんと和がらし。
パリッとした食感が出るほどに炙った皮目の香ばしさ。
脂も濃厚で食べ応え抜群です。
赤ウニ。
シャリを小さめでお願いしているので、ウニを上へ上へ盛ってくださいました。
ありがとうございます。
ここで追加を聞かれたので、今回は2貫お願いしました。
まずはやっぱり秋刀魚。
この時期に来たのなら外せないネタですね。
見るからに皮下の白い脂の層が分厚く、ちゅるりと舌で遊んでじゅわっと融けて。
脂が強くて最初は飲み込まれ気味だった秋刀魚の香りも、噛みしめるうちにシャリや身の旨みと合わせて立ち上がってきます。
最初は秋刀魚だけお願いしたのですけど、諸先輩方のブログ記事やお言葉が次々に思い起こされて堪え切れずにもう1貫注文しました。
その1貫というのは・・・
小肌。
お店の看板のひとつでもあり、新子の時期にはこれも美味しいと先輩の仰っていたネタであり、先日新子と小肌を食べ比べた先輩に両方10貫ずつイケると言わしめたネタということでもう我慢できなかったのですよね。
これが大正解。
小肌って美味しいでしょ、酢締めがよく合うでしょ、と語りかけてくるような完全無欠の一貫。
ああ凄まじや、凄まじや。
穴子。
塩かツメか確認されて、僕は塩を。
ちょっと写真では分かりにくいですが、緑色の柚子皮を卸してあります。
旨み、香りの構成は抜群。
スフレのようにたっぷり空気を含んで、あわよくばしぼんでしまいそうに儚い食感でした。
握りはこれで終了。
全く初対面のスタートからほどよく打ち解け始めた店内の雰囲気もいい感じ。
僕は端っこで大人しくしていましたけどね。
お椀が登場。
都寿司時代と同じ鶴がいました。
お久しぶりです。
あさりのお椀。
大きめのあさりが3つ。
砂抜きがイマイチだったのがちょっと気になりました。
とはいえ、力強く芯のある塩気が、まろやかな旨みの印象的な出汁をまとってお腹を落ち着けてくれます。
玉子。
パリッとした表面と、ふんわりと仕上がった中身の対比。
ムラのない火入れ。
最後に完璧な仕事を堪能して終了。
何といってもこちらのご主人の表情、立ち居振る舞い、その一挙手一投足の美しさには圧倒されるばかりでした。
伝統芸能の「型」のように、繰り返し繰り返し身体に覚え込ませた動きは、芯が通っているのにやわらかく、余裕があって迷いがないのですよね。
料理やコミュニケーションでもこちらのツボを押さえていて、満足せずに帰ることはできないお店だと感じました。
どんなに予約が難しくても、どんなに間が空いてしまっても、いつまでも通い続けたいお店です。
Aさん、ありがとうございました!