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美味しいもの食って写真撮って、あとで振り返ってのブログ

食べ歩きの記録です。よく食べ、よく歩きます。

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水天宮前の「蛎殻町すぎた」でおまかせコース④。

この日は今年2回目の「蛎殻町すぎた」さんへ。
偶然なのですけど、新富町の「鮨はしもと」さんと2週連続で伺うことができました。
前の回のみなさんがやや延びていたので少し待たされましたが、ここまで来れば嫌な気持ちなど芽生えたとしても気にもならず、入れ替わりですれ違うときはハイタッチさえしたくなる清々しい心模様です。
 
入口側の端の方に席をいただいてご挨拶。
 
「いらっしゃいまし」
ご主人はいつもコレなのですけど、言葉のチョイスが上品でありながらどこか小粋でニクいです。
 
「シャリを準備して参ります」
とご主人が厨房に引っ込まれて、しばし歓談。
 
さほど待たずに戻っていらして、早速コースがスタートします。
 
突き出しはいちじく。
和食はもちろん、生ハムやチーズと合わせた前菜も見かけたことはありますが、お寿司屋さんでいちじくをいただくのは初めてかも。
 
切り立ての角の立ったいちじくに、割り酢をかけておろし生姜をちょん。
 
いちじくの種の色が浅かったので「甘くないいちじくを選んでフルーツ感は出さない仕様かな」というイメージでいただきましたが、
 
酢の酸味とおろし生姜の香りが勝つのですけど、あとからじわじわ立ち上がってくる甘みの頂点が想像したよりはるかに高いところでした。
 
このひと口、ふた口では捉えきれない味の構成の意外性が、"突き出し"の妙味かもしれません。
 
さて。
 
お醤油とわさびが登場してツマミがスタートです。
 
利尻のヒラメ、様似のツブ貝。
スタートは前週のはしもとさんとドンピシャ被り。
 
あまりお行儀の趣向ではないかもしれませんが、せっかくまたとない機会なので比較できるところは比較させていただこうと思います。
 
こちらのヒラメは厚みを持たせた切り立て。
明らかに立体感のあるふくよかな舌触りに、幸福感すら覚えます。
 
エンガワはちょっと下品なほどによく脂が乗っていました。
 
ツブ貝は"厚み"云々ではなくて、そもそも包丁を進める角度がまるで違っていました。
すぎたさんはぶつ切りのような形に切り出していらっしゃいます。
 
ゴリッゴリに歯応えが強かったです。
 
おふたりともこれがそれぞれのスタイルなのか、ツブ貝に合わせて決めたものなのか。
どちらもそれぞれに魅力がありました。
 
鰯巻き。
ミョウガ酢漬け、ガリ、浅葱。
 
はしもとさんはたくあん、浅葱、ネギ。
 
はしもとさんの方はたくあんの甘みと食感がかなり軸になっていた感がありましたが、こちらは随分さっぱり。
鰯の脂の荒々しい流れの中をさらさらと薬味が流れていくような。
 
対馬の穴子白焼き。
「この時期は江戸前は厳しい。逆にこの時期は対馬にいいのがあるんですよ」とのこと。
 
すぎたさんの言い方を聞いていると、基本的には旬の江戸前の方が一枚上手なのかな。
ただ今回の対馬は、それにも引けを取らない質のものだったようです。
 
脂を落としすぎず、皮目もそれほどパリッとはしていませんでした。
今まで食べたことのある穴子白焼きとはまったくイメージが違ったのですが、かなり身に厚さを感じてすさまじい脂乗り。
味は濃いわ、香りは強いわ。
 
1尾分食べたくなるギラギラした魅力がありました。
 
ここでお茶をかえていただきまして。
 
あん肝、筋子味噌漬け。
お店の定番。
 
大体ここで隣の人に「お酒が飲めなくて損をしている」という話をされて、「お茶でも美味しく食べられます」と言い返すところまでがセットで定番です。
 
甘く炊いたあん肝、ねっとり濃厚。
 
隣りの人「もったいないな~かわいそうですね~」
 
筋子は水分が抜けて、ねっちり濃厚。
 
僕「嗚呼、お茶が進みます」
 
ねぎま串、わさび、柚子胡椒、大根おろし、すだち。
偶然なのか、この時期に出す理由があるのか分かりませんが、焼き物もはしもとさんと被りました。
不思議。
 
アラっぽい部位を使っているのではないかと思いますが、食感の突出したところは落としてあるのかも。
シンプルに霜降り状に脂が入ったような形になっていて、ふっくらしてじゅんわり。
とても贅沢な味わいでした。
 
「このまま握りに移りますか?もう少しツマみますか?」
と確認いただきましたが、僕は握りへ進みます。
 
右手におしぼりを、左手にガリを。
 
いざ。
 
小肌。
まずは恒例のスタートですね。
 
はしもとさんと同じくらいのサイズか、少しこちらが小さいかも。
脂乗りも控えめで、酢を感じます。
 
淡路の真鯛。
なぜか左利きの方用の向き、初体験でしたがこれは非常に食べづらいですね。
わざわざ左利きの人には逆向きで出す必要がある理由がよーく分かりました。
 
真鯛という寿司ネタは、別の魚かと思うほどに質感に幅がありますが今回は僕のストライクゾーンど真ん中。
昆布〆のような粘りが出て、強い旨み。
 
実は食べた後に「鯛はどこですか?」と産地を聞こうと思ったのですが、別のお客さんが「タイといえば…」と東南アジアの国の話を切り出してカウンター内外問わず全体でひと盛り上がり。
 
いま「タイはどこですか?」なんて聞いたら「東南アジアです」と言われかねないので、ここは自粛して後で聞きましたよ。
 
噴火湾の鰤。
いつもの漬けとは別のスタイルかと思いましたが、表面を落としてあるだけでこれも漬けなのだそう。
 
軽い脂ですが、しっかりした脂乗り。
舌に絡んでスーッと融けました。
 
北海道の鰤をみなさんで絶賛しつつ…
 
鯵。
一般的には「釣り鯵」の方が上物とされますが、すぎたさんはむしろ「網」の鯵を選んで使われます。
 
身は締まって脂が控えめ、鯵の旨みとシャリのシャープなバランスを堪能できますね。
 
鰆。
はしもとさんでいただいたときにハッキリ感じたのですけど、藁の香りは格段にはしもとさんの方が強く付けていらっしゃいます。
 
すぎたさんはむしろ鰆の脂の甘みで推しつつ、皮目の香ばしさと藁の香りで"抜け"に変化を付けている程度でしょうか。
燻製のものを食べるたびに「スモークチーズ」を引き合いに出すのって発想が短絡的で好きではないのですけど、殊この鰆に関しては身の融けたときの香りとか旨みとか。
チーズを感じさせる要素をふんだんに持っていました。
 
岩手の春子。
春子もいつも大きめを使われるイメージ。
 
厚みがあって、シャリと出会うまでに一苦労。
ただひとたび出会えばすっかり意気投合、みるみるうちに打ち解けてしまいます。
 
最初と同じお湯呑。
 
土筆(つくし)みたいに見えますけど、何の柄でしょう?
 
大間のマグロ。
小トロかな。
 
脂の甘みと、軽--ぅい酸味と。
前週のはしもとさんも大間でしたが、今いいのが結構揚がっているということなのでしょうか。
これからが旬真っ盛りの大間の本まぐろ、幸先が良さそうです。
 
握りも終盤、ラストスパート前に新しいガリをいただきます。
 
鰯、ツマミでいただいたものは酢締めでしたがこちらは塩締め。
水分が抜けて、極端な表現をすれば質感はパサついた感じ。
 
しかし口内の温度で融けた脂が舌触りを馴らして、香りがあっという間に広がります。
 
車海老。
キュッと歯にかかってプチンと弾ける食感、甘み甘み香り甘み。
 
いつも高いレベルで安定した仕上がりのすぎたさんの海老ですが、今回はちょっと安定感を乱す「良さ」でした。
火入れの温度、時間を1点にピタリと合わせる技術、そしてもちろんモノの質。
 
壱岐の赤ウニ。
崩れやすいので「写真撮りますよね?すぐ撮ってすぐ食べてください」と言い添えて提供されます。
「はい!撮って!」
はい!パシャ
「はい!食べて!」
はい!ムシャ
 
壱岐のモノは「粘り」があって、唐津にいくと「サラッと」するそう。
覚えておくと今後楽しめそうです。
 
この日出ていないネタを教えていただいて、追加分を決めます。
 
イサキ。
1.2kgくらい、すぎたさん的いいサイズだったそう。
 
よーく脂が乗って、食感は少しネットリ、旨みバッチリ。
真鯛をもうちょっとたくましくしたような味わいですね。
 
長万部のホッキ。
そういえば握りに貝がなかったのでこちらも追加。
 
かなり大きなホッキ、厚みもあってかなり深くまで歯を受け入れてパチン。
旨みより甘みに寄った味わい。
序盤に出るときは旨みが強いのが好みでしたが、〆近くでいただくのはこの甘いのが合っている気がしました。
適材適所。
 
対馬の穴子。
白焼きに使ったものと同じだそうで、とろん、ちゅるんとかなり強めの脂乗り。
 
穴子はやっぱりツメとの組み合わせが頗るハマる魚ですが、塩でシンプルにいただくのも捨てがたいのですよね。
「両方」という選択肢もアリなようでしたので、次回は検討したいと思います。
 
最後にお椀。
 
奥の方に座っていらっしゃったお客さんとすぎたさんが、
「これ、○○ですか?」
「そうですそうです」
みたいな会話をされていて、そのときは聞き慣れない単語でよく分からなかったのですが、
 
多分「螺鈿(らでん)」。
貝の裏の七色に光るところを薄く切って漆器を装飾したものだそう。
 
光りの加減が難しかったのですが、写真で1か所あざやかな光を放っているのがお分かりになりますでしょうか?
 
いつか僕も涼しい顔をして「これ、螺鈿ですか?」なんて聞いてみたいものです。
 
アサリのお椀。
はしもとさんより味噌は淡いですが、シャープな出汁が攻撃的的に旨みを発揮。
 
きめ細かい玉子はパスッと歯切れ。
 
砂糖の甘みと卵の旨みと海老の香りと。
 
というわけで、今回ももちろん大満足でした。
 
はしもとさんと近いスパンで伺うことで、比べながらいただくことができたのも大きな収穫。
というか比べてみて、かなり印象が違っていることが改めて分かりました。
 
近いところもなくはないですが、もともと同じお店で同じような仕事をしていたところから違った方向に歩んでいるのを感じている印象。
時を経るごとにもっとガラッと変わっていきそうな気配。
 
次回はいつになるか分かりませんが、楽しみが膨らんでいます。

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