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美味しいもの食って写真撮って、あとで振り返ってのブログ

食べ歩きの記録です。よく食べ、よく歩きます。

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京橋の「シェ・イノ」でマリア・カラス、紅白の蕪とオマール海老のサラダ、カリフラワーのムース、ワゴンデザート他。

マリア・カラス。
20世紀最高と謳われるソプラノ。
その名前を冠したフランス料理の逸品を求めて、"考案者"のお店へ。
 
やってきたのは京橋にあるグランメゾン「シェ・イノ」さん。
 
1度だけチャリティーカレーのイベントでお邪魔したことがありますが、当たり前ですけどまったく雰囲気は別物ですね。
 
フランスの名店「マキシム」「トロワグロ」など名だたる名店で修行し、銀座の「レカン」でシェフも務めた井上旭さんが1984年にオープン。
 
経歴だけで既にまばゆいですが、集大成ともいうべきこちらのお店ももちろん燦燦と輝くこと30年以上。
 
現在は古賀シェフにバトンを渡されていますが、この日は井上シェフもお店にいらっしゃいました。
 
口頭で説明されるメニューはちょっとなめらかすぎて頭が付いていきませんでしたが、なんとか注文。
 
何度か予約できなかった経験があったのでギュウギュウ満席になっているものかと思っていましたが、ほどよく埋まっているという程度でしたね。
 
時間がズレているか、適度な客入りでセーブしているのかもしれません。
 
アミューズにカリフラワーのムース、コンソメのジュレ。
 
クラシカルなフレンチではド定番。
シンプルだからこそ個性が出やすいメニューでもあります。
 
写真で伝わるでしょうか?
生クリームより生クリームが濃く仕上がったようなリッチなカリフラワーのムースは
むしろモダンにさえ感じられる口当たり。
コンソメは、第一印象はこざっぱり、そこからから振り切って深く深く、舌から神経系へ沈みこんできます。

いきなり凄まじかったです。
 
パンとバターはあまり気合いを感じず。
 
この辺りは同じくクラシカルなフレンス料理の「コート・ドール」さんと共通している気がしました。
紅白の蕪を被せたオマール海老、アボカド、グレープフルーツ、フルーツトマトのサラダ仕立て。
蜂蜜とシェリービネガーの甘酸っぱいソース。
 
白いお皿のキャンバス上に、紅白の蕪をはじめビーツやアボカドのコントラスト、シェリービネガーのソースのきらめき。

  

甘みの強いソースの枠の中にまとまった味わい。
唯一グレープフルーツの苦味が浮いていてアクセントになっていました。
 
蕪をよけるとオマール海老がたっぷり。
そしてこれが、美味しい。
 
イメージよりは浅い火入れで、気を抜いたら口から垂れてしまいそうなほどにジューシー。
そして香りが強いとか豊かとかいうより"多い"というイメージで、口に収まりきらず、鼻から蒸気機関車の蒸気のように抜けていきます。
 
マリアカラス ペリグーソース。
 
フォアグラとトリュフを巻き込んだ仔羊を鮮やかなロゼにロースト、さらにパイ包みにした贅沢至極の逸品。
 
井上シェフが、「レカン」で日本にジビエを浸透させるべく奮闘する中で考えたメニューなのだそう。
マキシムにいた際、常連だったラムスキーのマリア・カラスが、牛肉のパイ包みを仔羊に替えさせていたことに着想して名付けたのだとか。
 
仔羊は、ソフトさと肉々しさを併せ持った食感、すぐ美味しいと分かる強い香り。
これだけで申し分ない完成度の料理として成立しています。
 
しかし完成しているとは言ってみたものの、パイを合わせるとちゃんと一段上に上がる感があるのですね。
 
欠けたパーツを埋めるというよりは、上乗せした美味しさ。
言いようによっては"蛇足"とも取れてしまうかもしれませんが、ひとくち食べたらもう元には戻れない魔力があります。
 
案外主張が弱いのはフォアグラ。
 
トリュフはソースにも入っているので、食べている間中香っていてさすがに印象の色付けになります。
 
さすがさすが。
さすがの貫録でした。
 
デセールはワゴンで登場。
「お好きなものをお好きなだけ」とのことでしたので「全種類を少しずつ」とお願いしてみました。
 
手際よくサーブしてくださるのを見ながら「全種類頼む方は多いですか?」と伺うと、
「全種類を1人前ずつとか、その倍とか頼むお客様もいらっしゃいますね」
とのこと。
 
とりあえず「次は頑張ります」と謎の答えをしておきました。
 
全6種類。
キャラメルとチョコレートのムース、苺のタルト、モンブラン、カシスと紅茶のムース、金柑のコンポート、チョコレートケーキ。
 
金柑は「季節のものとして」とのこと。
 
モンブランはベースにちゃんとメレンゲ。
 
どれも香りに迫ってくるものがなく、甘みで押し切る感じ。
悪いものは使っていなさそうですが、明確に印象に残るものはなく。
 
小麦粉を使っていないチョコレートのケーキ。
 
特別素晴らしいデザートではないものの「シェ・イノに来た記念」とでも言いますか、ワゴンを目の前にしたら結局「全種類!」と言ってしまいそう。
 
ハレ感のあるゴキゲンなデザートでした。
 
ハーブティーだけでも7種類くらいありましたが、レモングラスをチョイス。
 
シェフの著書の中に、修行時代にみつけた「目指すべき星」としてジャン・トロワグロ氏の話が何度も出てきます。
ざっくり言うと、彼のソース作りは天才的で、同じルセット(レシピ)で作っても誰にも真似できない、だから自分は彼の"動き"を真似して身体で覚えたと。
 
「なぜかは分からないけど美味しくするために経験的にやっている」というのはまるで「おばあちゃんの知恵」みたいなね。
天気の予知とか「昔の人は科学的には分かっていなかったのにすごいね」みたいなことってあるじゃないですか。
 
「料理は科学」などとよく言われますが、実はまだ未解明なことばかりで、シェフの仰っていることはある意味原始的な、科学的なものとしての正攻法なのだろうと思います。
 
開店当初シェフが自身のポリシーとして「フランス料理の見識を崩さないこと」と語って「王道宣言」をされたそうですが、同時に「創造のない伝統に進歩はない。伝統を持たない創造には、持続力がない」とも述べていらっしゃいます。
 
変わらないために、変える。
ある意味矛盾することをやっているわけで、簡単に正しいかどうかみたいな判断はできないかもしれません。
ただ、開店35年を超える今、提供する料理、サービスはキラキラに輝くクラシックであった、という感想を〆の言葉にさせていただきたいと思います。
 
また伺います。
 
参照

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