このところ周囲で人気が高まっていて気になっていた六本木の「鮨由う」さんへ。
2016年12月オープン、翌17年12月にはミシュランの星を獲得した快進撃真っ最中のお店です。
お店は地下。
表から分かる目印の看板提灯は開店時間まで出て来ないので、早めに行動した方ほど初訪問では迷ってしまうかもしれません。
ご主人は「鎌倉 以ず美」「かねさか支店」「神楽坂 りん」で修行されてきたそう。
直接伺ったわけではありませんが、もともとは「鮨由」にしようとしていたところ字数が良くないということで「う」を足したと風の噂で耳にしました。
「六本木のミシュラン星付き店」というイメージをスタートから吹き飛ばすご主人の軽口っぷりで(いい意味で)、逆に緊張したほど。
意図的に高級店の緊張感を打ち消そうとしていらっしゃるような気がしました。
初訪問のお店だと、序盤は緊張に呑まれそうになりながらも、美味しいお料理をいただくにつれ段々と空気に馴染んで最後はすっかりイイ気持ちに…という馴らし方だったりしますが、こちらはリハーサルなしでいきなり本番とでもいうような。
いきなり楽しかったです。
嶺岡豆腐。
牛乳、生クリーム、トウモロコシの裏ごし、吉野葛。
嶺岡というのは日本の酪農発祥の地だそうで、視察に訪れた将軍・吉宗が急に「豆腐を食べたい」と言い出したのに対応するために牛乳と葛で作ったのが始まりだそう。
しっとり、少しねっとり、ほんのりとトウモロコシの甘み。
優しい味わいですが、お寿司のスタートが乳製品ってなかなかなくて少しそわそわしました。
ハマグリとうるい。
カツオとハマグリのダブル出汁。
2品目は季節のお野菜と貝、「これこれ!」という感じ。
旨み推しで香りも良し。
出汁は明々白々とした強い主張で、これから始まるコースの随所にみられることになる振り切ったチューニングの兆しだったかもしれません。
わかめとポン酢。
このわかめは食べ放題だそうで、食事中言えばいつでも追加してくださいます。
他の料理で他の調味料が出るたびに「これと合わせてもいいですよ」と勧めてくださいました。
そういうのって試したくなるのですけど、お店の方を目の前に勝手にやるのは邪道かな?と躊躇してしまいがちなもので、その都度コメントしてくださるお気遣いがありがたかったです。
お気遣いといえば、おしぼりの他にご覧の指拭きもご用意してくださっていましたね。
ご主人は、握りについても1ネタ1ネタ手を水道で洗い直していらっしゃって、べしゃりのイメージからは想像のつかない繊細な感性の持ち主のようでした。
食べ歩きもかなりされるようだったので、客目線というものも造詣が深くていらっしゃるのかも。
平政、器の底に煎り酒がひたひた。
煎り酒というのは、日本酒、梅干し、鰹節、昆布などを煮詰めた調味料で、醤油が普及する前に定番で使われていたものですね。
ほどほどの脂乗り、包丁を細かく入れて柔らかな口当たりにしてあります。
身の旨みや香りが立った平政で、煎り酒に合わせるには持って来いだったように思いました。
岩手県広田湾産の生牡蠣。
真ん中でカットしてふた口でいただくようになっているようです。
生牡蠣というと殻の向こうの先からすするようにいただくのが通常だと思いますが、カットしてあってお箸でいただくことを考えると盛り付けのセオリーから言って手前からいただくべきでしょうか?
ちょっと逡巡しましたが、手前からいただくとまずストレートに牡蠣の磯の香り。
ふた口目はもみじおろしと薬味が乗ってさっぱり。
やはりこちらが正解だったような気がしますねえ。
のどぐろ・紅瞳串焼き。
高級魚のどぐろの中でも最高峰のブランド「紅瞳」。
ねぎま風の串で登場です。
串に刺さってるだけで、何が違うのかと思われてしまうかもしれませんが、はっきりと違うのは食べる瞬間の問題で。
こんな高級魚の焼き物ですから、お皿で出てきたらお箸でちまちま突いてしまいそうなもの。
しかしこうして串で出されたら、思わず一切れをひと口でパクッといってしまうのですね。
というのは僕の勝手な想像なのですけどね。
ご主人の、いかに最高に美味しい食べ方をしてもらうか、という試行錯誤が感じ取れる気がするのですよねえ。
青森のムラサキウニ、北海道の毛蟹。
「インスタ映え、狙ってます!」
ウニは先日鮨はしもとさんでもいただいた「見た目は悪いけど味は良い」と名高いアレですね。
しっかり甘みがあります。
これだけ豪華なものをいただいておいて恐縮ですが、何が美味しいって海苔が美味しくて。
1番最後に印象の残る味、香りが海苔なのですよねえ。
見た目負けしない賑やかな味わいでした。
煮切り醤油、地からし。
通常のからしは「カラシナ」の種を脱脂してから粉砕するところ、地からしは種まるごとすり潰すそう。
粒が見て取れて、マスタードみたいですね。
辛みが強いということでしたが、なめてみても香りが良いという程度だったように思います。
藁で燻したメジマグロ。
地からし醤油を合わせていただきます。
メジの鉄分を感じる爽やかな香りに、地からしの鼻にくる香りが合いますね。
そして、何も付けなくてもほのかな藁の香りがほどよかったです。
地からし醤油は、わかめを付けて。
名物のひとつ、「プリン巻き」。
あん肝、シャリ、きゅうり、奈良漬け。
洋菓子の「プリン」ではなく、たっぷり使ったあん肝の「プリン体」から命名されているとのこと。
プリン体の罪深さとあん肝のコク深さ。
あん肝といえば、グルメ漫画の金字塔というべきアノ作品で「フォアグラにも勝る日本の食材」として登場したことが有名ですが、シャリと和えるとドリアみたいになりますね。
フォアグラドリアみたいなね。
こちらを奈良漬と合わせます。
フォアグラに甘くてお酒の香るソースを合わせるようなイメージですね。
個人的には、キュウリはあまり必要性を感じませんでした。
むしろ奈良漬も刻んで混ぜ込んでくれるくらいの方が、組み合わせの妙を堪能できそうな気がしたりして。
茶わん蒸し。
前半で予告のあったこちら。
ハマグリとカツオのダブル出汁。
2品目に出たハマグリと同じ出汁のよう。
貝の出汁が目立つバランス感、表面を覆う熱々の葛餡もお出汁でした。
タラの芽、こごみの天ぷら。
やや、揚げ物もあるのですね!
野菜の色が綺麗に出ていますね。
脂切れはそれほどよくなかったように思います。
しかし、海外からのお客さんも多いと伺いましたから、きっとそういった方なんかには喜ばれるのだと思います。
広島の藻塩。
こういったところにも手を抜かないで用意されているところがこちらのお店らしさだと思います。
これまた個性的なガリ。
角切りになっているのですよね。
甘さが強めで、イメージとしてはらっきょう酢に近いような感じ。
とても食べやすい、というかパクパク食べ進めてしまう味でした。
ほたるいか串焼き。
こんな食べ方をするのは初めてのような気がします。
ボイルで食べるよりも、ちゃんと焼きイカになっていて面白かったです。
春子。
身は昆布締め、皮は湯霜。
水分はしっかり抜いたとのことでしたが、軽い〆でふんわり。
握りが始まった、と見せかけてまたツマミへ。
フタを開けると…、
ふぐ白子。
さらに下に、毛蟹、シャリ。
よく混ぜるよう指示がありました。
混ぜが足りないお客さんには「よく、混ぜてください」と念押しまで。
ふぐの白子ってほぼほぼクリームのようで、意外と魚の香りが入っているのですよね。
さらに毛蟹の甘み、甘い香りが加わって、シャリ一粒一粒をコーティング。
"ツマミ"と申し上げましたが、こちらは"飲み物"に訂正させていただきたいと思います。
甘鯛。
春子と打って変わって強い昆布締め。
ねーーっとり緩んだ身は、よく寝かせたイカのよう。
興味深い仕上がりでしたが、さすがにここまでやると味も抜け始めてしまっていたような。
トリ貝。
表面のぬめりを取る程度の火入れで、ほぼ生。
ぬめりは取りたい、生の食感は活かしたい、火入れで味を引き出したい…というところで、絶妙なところでバランスを取った仕事になっているそうです。
千葉のアジ。
片身2枚のサイズで、厚みのある身。
乗せてある薬味は生姜とあさつきを刻んだものだそうですが、にんにくのような香りがします。
小肌。
おぼろを挟んだクラシカルな仕事。
〆が強めで、酢をしっかり感じます。
身がさらーっときめ細かくなっていて、空気のように軽い口当たりでした。
再び紅瞳。
皮目に醤油を塗って炙ってあります。
持つと驚くほどやわらかな身、賛否分かれそうなほどの皮目の香ばしさ。。
容赦のない圧倒的脂乗りです。
もう少し歯応えというか、食感にコシがあるとなおいいのですけどね。
ここまで脂が乗ると、火を入れた方が適切なような気がしました。
玉子焼き。
あおさのり、胡麻油。
胡麻油の香りを感じるのが面白いですね。
海苔+胡麻油なので、韓国のりを彷彿とさせる味わいに。
歯舞のバフンウニ。
こちらもインスタ映え狙ってます系に、ウニを盛り込んでくださっています。
前のお客さんでちょうど1箱終わったのですけど、新たに冷蔵庫から出したウニはちょっと冷えすぎ、というか冷たくて味があまり分からないほどした。
これは運がなかったということで。
フロリダのまぐろ赤身。
フロリダのまぐろ中トロ。
細かく包丁が入っています。
フロリダのまぐろには悪い印象はなく、むしろ結構良い印象さえあるのですけど、今回は香りの弱さが気になりました。
まあ立地、価格からいってかなり頑張ってくださっていらっしゃるでしょうから、まぐろにはそれほどお金をかけられていないのかなという印象。
大トロ砂ずり。
こちらだけ長崎五島のまぐろ。
「ステーキをイメージした」という言葉通り、肉々しい旨み。
まぐろの質で足りない分を、仕事でちゃんと補いにきていて大変興味深い1貫になっていました。
まぐろを炙っちゃうのはそれほど好みではありませんが、こちらはそのまま食べるよりも美味しくなっていたと思います。
天草の車海老。
40,50gだったかな?凄まじい大きさです。
「すぎた」さんや「はしもと」さんも大きな海老を使いますが、ちょっとおよそ比較にならないレベル。
身が重いだけでなく、ミソのたっぷり塗ってあったかと思います。
ずっしり指にくるこちらを、つまんで口へ、ぱくっ…
ちょっと火が入りすぎかな?
まあ、このサイズの海老に何人前か同時に適切に火を入れるのは難しいでしょうからね。
ノリのお味噌汁。
出汁を前面に出していらっしゃいました。
トロたくで〆。
ネギトロの紅を弱める赤シャリの存在感。
こちらもやっぱり海苔が凄まじく香りよかったです。
というわけで、すごい品数でしたね。
伝統的な仕事を前提としつつも、「職人」仕事にありがちな強情さみたいなトゲトゲしさがなく、柔軟な姿勢が随所に見て取れるお店でした。
よくお勉強されて、ご自身が実際に外に食べに行かれるご主人のトークは、勉強になるところが多くて、それ目当てにでも頻繁に通いたくなってしまいました。
とても良心的なお店でした。
ごちそうさまでした。