満を持して、今回の旅行のメインイベントへ。
訪問先をシンガポールに決めたのは、2019年のアジアレストランランキング50でナンバーワンに選ばれたお店があったからなのですよね。
odette(オデット)。
ナショナルギャラリーの敷地内にあるお店は、白が基調で宮殿のように麗しい内装。
ジュリアン・ロイヤーシェフは、フランスのミシェル・ブラス、イギリスのグリーンハウス、そしてシンガポールのジャーンと経歴に名店の名前が連なる方。
結構早めに予約してあったからか、ガラス張りの厨房を目の前に拝見できるテーブル席でした。
ありがたやありがたや。
ソフトドリンクは色々ご用意がありましたが、ライチのジュースをお願いしました。
甘みはもちろん、華やかな香りが濃厚でひとくちひとくちに満足感があります。
アミューズは3品。
どれも手の込んだフィンガーフードです。
しゅくっとしたシュー生地に、コンテチーズのクリーム。
濃厚なコンテの風味に、シュー生地の軽い香ばしさがよく合います。
グリーンピースのタルト。
小粒でみずみずしいグリーンピース、チャイブの下に、スモークのクリーム。
ぼたん海老のタコス。
アボカドやディルとマリネしてあります。
ぼたん海老のみでいうと、食感のハリや甘みの強さは、日本で食べるものには劣るのかも。
続いて丸っとした深い器に蓋、小さじ。
まるで茶碗蒸しのような何かが登場。
中身は、キノコやサフランの香るサバイヨンのような泡だてたソース。
これでまだ完成ではなく…、
フレンチプレスで抽出したキノコの"お茶"を注ぎます。
キノコのスープに、キノコの泡で蓋をして香りを閉じ込めた形。
さらに、添えられたキノコのブリオッシュは、スープに浸しながらいただきます。
説明しながら目の前で仕上げられる過程で、すでにほの香ってきて悶絶級だったのですけど、ブリオッシュの説明で1度目のダウンを喫しました。
サービス精神がありすぎ…!
キノコのスープで凄まじい破壊力をもつお店が多いとは思いますが、こちらは泡で付けてくる変化といい、ブリオッシュの浸けパン方式といい、個性の部分で魅力が爆発している感じがお見事だなあと思いました。
凄まじく美味しかったです。
ホイップしたスモークバターと、風味の強いカタルーニャのオリーブオイル。
続いて登場したパンは、
いきなり盛り合わせ。
ケシのデニッシュ、ライ、ローズマリーのフォカッチャ。
自家製のようにも思われましたが、どれもとてもしっかりした造りのパンでした。
小麦粉美味しい。
続いての前菜は帆立とビーツ。
ここへミントオイルの鮮やかなスープを注ぎます。
これで彩りのハッキリしたお皿が完成。
お出汁みたいなスープなのかと思いきや、冷たい甘酢みたいな感じでした。
ビーツと帆立の甘みが、それぞれ別の方向性なので厚みのある味わいに。
同時に出されたのは、海苔のフライにバター。
フライというより"天ぷら"といってもいいような揚げ方だったように思います。
帆立に海苔、という組み合わせがどことなく日本的。
シグニチャーディッシュ(看板料理)だというビーツのバリエーションサラダ。
多様に調理したビーツで構成されています。
右端から時計回りに食べ進めるように指示がありました。
言われなかったらどこから食べるか悩んでしまうところ。
最初のビーツのソルベが秀逸。
見た目は完全にデザートなのですけど、野菜然とした味わいをはっきり主張していて、このお皿の方向性を示してくれるようです。
ボイルしたビーツなどは完全に根菜ですが、メレンゲで甘みを挟んだり、スモーキーな味わいのチーズを挟んだり、見た目に負けない豊かな味わいが秀逸でした。
この辺はシェフの出身店であるミシェル・ブラスの名物料理「ガルグイユ」に通ずるところもあるのかもしれません。
素晴らしい一皿でした。
これを食べるためだけにもまたお邪魔したくなりそうです。
続いて、すごいのが出てきました。
噴き出す煙がテーブルをあっという間に覆います。
よくよく見ると置かれているのは卵パック。
卵の殻の中には温泉卵が入っています。
続いて出てきた卵型の器。
こちらはジャガイモのエスプーマが入っていて、さらに器の下側が空洞になっていて器の中で燻製になっているそうです。
お店の方が卵をエスプーマに落としてくださいました。
自分でやったら割ってしまいそうで、ドキドキしていたのですよね。
あまり混ぜすぎないように、という指示があったのでそのように。
ジャガイモと卵の鉄板の組み合わせ。
一瞬で広がるスモークの香りと、じんわり流れ出る卵黄の強弱が効いたリズム感。
魚料理は鮮やかなサフランのソース。
魚の名前は「Red mullet」と言われましたが、ちょっと存じ上げなかったのでスマホで検索。
便利な時代になったものです。
調べると多分「ヒメジ」という魚ではないかと思います。
日本に戻ってから市場でも聞いて回りましたが、あまり日本では知られていない魚なのですかね。
添えられているのはヤリイカ。
アミューズのぼたん海老で感じたことに近いですが、食感や味の濃さでは少し物足りないところ。
金目鯛を思わせる真っ赤な皮目はカリカリ。
身は半生に火を入れたミキュイ。
ただこれも、個人的な好みかもしれませんが火入れが浅すぎる印象で、味が出ていないように感じました。
全体的に海の食材は味や食感が弱く感じられました。
お国柄の違いということもあるのかもしれません。
続いてお肉料理。
焼き上げた塊を各テーブルに回って見せてくださいます。
というわけでスプリングラム。
ニュージーランドの春(9~11月)に生まれた仔羊は、一番豊かな時期の牧草を食べて育つのでこの時期に食べるラムが最高なのだそう。
ソースはコーヒーのソース。
ガルニのズッキーニと、パプリカのソース。
とにかく柔らかなスプリングラム。
それでいて旨みのしっかりした味が出ています。
ちなみにお店の方に「めっちゃ"soft"ですね!」と伝えたら、「お肉については"easy to eat"と言いますね」と教えていただいた、ような気がしています。
チーズは、トラップデシュルニャック、ブリヤサヴァラン、セルシュールシエル。
トラップデシュルニャックというのは、クルミのリキュールでウォッシュしたチーズなのですけど、モロにクルミの渋皮の風味が付いていて、なぜかとんがりコーンとかみたいな駄菓子やスナックっぽい味になっているのですよね。
レーズンやなつめと合わせながら。
アヴァンデセールにはぶどうのアイス、ぶどうのソルベ、下に隠れた実はデラウェアだったような気がいたします。
何気なくいただいてしまいましたが、デラウェアって日本のぶどうですからねえ。
どうだったのか。
上の飴をパリンッと割ってから食べるスタイル。
アヴァンデセールひとつとってもこの手の込みようです。
デセールは、柚子のアイス、メレンゲにレモンカード。
中に緑のアイスが入っていて、伺うと「バジルみたいな…」ということだったのですけど、よくよく聞いたら「紫蘇」なのだそう。
海外だと紫蘇って「バジルみたい」という言い方になるんだなとひとつ勉強になりました。
レモンカードはマイルドで甘めなのに対して、柚子のアイス、メレンゲは苦みっぽいところもで鮮烈に表現されていて、かなりさわやかな仕上がり。
コース全体のイメージからいうと、デセールはかなりシンプルな印象でしたが、ひとつひとつのパーツの味が丁寧に作られているなあと思いました。
お茶菓子も賑やか。
パッションフルーツのアイスをホワイトチョコがけにしてあるような感じだったと思います。
アイスが融けるので早めに食べるように、とのことでした。
東南アジアではたくさん食べて帰りたいと思っていたマンゴーが出てきたので喜ぼうと思ったのですけど、「MIYAZAKI MANGO」とのことでした。
ジャパンブランドって強いのですねえ。
そういえば、日本でいいお店のカトラリーというとヨーロッパのものを出すお店が多いと思うのですけど、シンガポール・タイではMade in Japanを見かける機会も結構ありました。
しっかり焼きのカヌレ。
ショコラのタルト。
ほろっとやわらかな生地に、とろりなめらかなガナッシュ。
とにかく楽しませる演出に溢れていて、終始わくわくしながら過ごさせていただきました。
色使いという意味で"静"の鮮やかさに加えて、目の前で仕上げたり、香りが溢れ続けたり、"動"の面でも鮮烈な印象を残す演出がなされていて、とても楽しかったです。
無事に食事を終えられたというバイアスを差し引いても大大大満足の食事ができました。
ごちそう様でした!