閉店を発表された渋谷の「コーヒーハウス・ニシヤ」さんへ。
美味しいだけでなく「かっこいい」という言葉のよく似合うコーヒーメニューに、シンプルに王道を行くプリンなどで、押しも押されもせぬ人気を博すお店の突然の発表に界隈はざわついたわけですが、今のお店では自分の理想を追求できなくなったといった趣旨の店主さんによる説明の説得力にぐうの音も出ないよねという話でやっぱりさらにざわつくこととなったことは言うまでもありません。
例によって僕もその閉店について人と語らうにつれ、最後にもう1杯…と時間をみつけて滑り込みました。
カプチーノ。
お店の定番であり、個人的にも1番多く注文してきたメニューです。
まずこの洗練されたお店オリジナルのカップ。
こちらのお店ほど自然でスタイリッシュなロゴ入りカップってないように思うのですよね。
見るからにのっぺりと濃密なフォームミルクと、仕上げにかけられたココアパウダー。
ひと手間と確かな技術が生み出す圧倒的な美しさがここにあるのですよね。
ちょっと濃いミルクと、ちょっと香るココアが他の追随を許さないキラーコンテンツなのは間違いないとして、それらを両脇に抱えてなお存在感が揺るぎない骨太なエスプレッソのパワーが何よりもこの1杯を支えているような気もします。
何回いただいても感情を揺さぶられる1杯、最後まで魅了してくださいました。
そしてこのお店を語る上で外せないのが、このタイミングで出される水。
「このタイミング」というのは、もうそろそろ飲み終わりそうな絶妙な一瞬なのですよね。
飲み始めはカプチーノに集中させておいて、最後のひと口をよりクリアに味わわせるような絶妙なタイミング。
どんなにお店が忙しくても、毎度ここを外さないところがシビれるのですよね。
底に残ったミルクとクレマは、添えられたスプーンですくっていただきます。
かゆいところに手が届くのは当然のこと、「ここかゆいんじゃないですか?」とかゆいところに気付かせてくれて掻いてくれるような一歩先をいくサービスも唯一無二の存在でした。
ビチェリン。
「閉店前にもう1杯…」と訪問したとはいえ、2杯目も注文です。
お店のインスタでは「(簡単に言うと)コーヒーでつくったココアに生クリームで蓋をした温かいドリンク」と表現されています。
グラスの形と相俟って、生クリームが美しいフォルムを形成しています。
甘さが立ちすぎず、かといってショコラの角の立ったところは微塵も感じさせないまろやかで温かなホットチョコレート。
後味をギュッと引き締めるエスプレッソと、ボリュームはあるのにフラットで軽い味わいの広がる生クリーム。
見た目以上に豊かで複雑な味が絡み合っているのに、余韻はシンプルで静か。
永遠に飲んでいたくなる1杯でした。
新たにコーヒースタンドを蔵前に出店されるそうで、それはちょっとひと安心。
店主さん曰く「移転ではなく閉店と新店」。
「コーヒーハウス・ニシヤ」には別れを告げて、新たなお店との出会いを楽しみにしつつ、涙をこらえてごちそう様でした!