コーヒー豆の買い出しも兼ねて、少し久しぶりの蔵前「蕪木」さんへ。
週末は朝9時から営業されていて、早い時間に行くと比較的空いているのでゆったり過ごせるのですよね。
注文したのはモカベンサと無垢チョコレート(果香)。
もともと製菓メーカーのチョコレートの技術者として働かれていた店主さんが、カカオの風味表現にこだわって、フルーツやナッツ、クリームなど、他の素材を入れずに作ったタブレットが無垢チョコレート。
店主さんの著書で、コーヒーとチョコレートを合わせるコツは、「似た者同士を組み合わせること」と書かれていたのを覚えていたので、中深煎りでフルーティーさを残したコーヒーを選びました。
無垢チョコレートの愉しみ蕪木祐介さん連載「嗜好品の役割」第7回 |料理通信|生産者、料理人、食べる人を結ぶ
「蕪木」さんは信頼できるお店だなと思う理由のひとつが、珈琲とチョコレートの専門店でありながら、「珈琲とチョコレートは相性が悪い組み合わせ」と公言されえいるところ。
カカオの香りがふくよかなチョコレートほど、そして質の良いデリケートな珈琲であるほど、共に食べてみると香りや味が喧嘩してしまい、簡単に互いの良さを失ってしまう。水(珈琲)と油(チョコレート)、なかなか一筋縄にはいかない。
僕も、「コーヒーと一緒に食べるチョコレートは美味しくなることがあるけど、チョコレートと一緒に飲むとコーヒーの味は負ける」と思っていたので、この考え方をされていると知ったときは思わず拍手か握手をしたくなったほどでした。
一方で、初めて「コーヒーとチョコレートが合う」と感じたのもこの「蕪木」さん(旧店舗)でのことでした。
本当はどちらかに絞ってやった方が商売的にはやりやすかっただろう。それでも両方作っている理由は、どちらに対しても自分の作りたい欲、自分がやらないと気が済まないウズウズがあったからという理由以外にも、仲の悪い両者でも、同じ方向を向いた珈琲とチョコレートが出会った時の深い奥行き、心地良さを知ってしまったからだろう。組み合わせ方によっても印象は変化し、複雑な余韻が長く残る。
「実はウニが苦手だから、うちは、ウニが苦手な人でも食べられるくらい本当に美味しいものしか出さない」という寿司職人みたいに、珈琲とチョコレートは合わないと考える「蕪木」さんだからこそ、それでも合わせて提供されているものは信頼できるなあと思うのでした。
期間限定でチョコレートを使ったデザートメニューを提供されている時期に、デザートとコーヒーを注文すると「デザートを召し上がっていただいてからコーヒーをお出ししますね。でないとコーヒーの味が負けてしまうので」とあくまでも貫き通す店主さんの説明を聞くたびにほくそ笑んでしまいます。こだわる人は面白い。