2025年2月末での閉店が発表された、三田の老舗フランス料理店「コートドール」さんへ。
年末頃からじわじわと閉店の情報が広がって予約はほぼ埋まったと聞いていて、最近2回ほど行こうとした日に満席で断られてそのままになっていたのをいたく後悔しましたが、幸運にも予約を持っている方にお誘いいただいて閉店直前すべり込みで伺うことができました。

1986年開業ということで、自分より歴史の長いお店。
食べ歩きを始めた大学生の頃から「名店」としてその名は存じ上げていて、シェフの修業時代から「コートドール」を立ち上げるまでを著した自伝本「調理場という戦場」は20代前半から人生のバイブルのようにしていました。
1度は伺ってみたいな……と恐る恐る予約を入れてから約10年。
お料理が美味しいのは言わずもがな、この非日常な空間にいられる快感、それでいて実家に帰ってきたかのような居心地のよさ、そしてここで食事をすると自分がちょっと特別になれた気がする。
記念日や自分にご褒美をあげたいとき、ただ美味しいものを食べたいだけでも、色んなシーンでお邪魔させていただきました。
その日の食材で用意される手書きのメニュー。
いつものようにワクワクしながらオーダーを考え始めましたが、途中で「食べる料理を決めること」は「食べない料理を決めること」だと気が付き胸がギュッと締め付けられます。
桜海老のトースト。
初訪問のときのアミューズは赤ピーマンのムースでしたが、今回は季節的にトースト。
見た目、香り、手に取ったときのカリッと焼かれた軽さと固さ。
このトーストが、食事が始まる前のまだ目覚めていないすべての感覚に「美味しそう」と刷り込んで、パリッと口の中で割れた瞬間にがスタートします。
ほんのひと口、「もっと食べたくなる」くらいの食欲の湧き上がるひと口なのです。

パンとバターをいただきまして。
鹿のテリーヌ フォア・グラ入り。
これは初めていただくお料理。
ギュッと引き締まったお肉の旨みの濃いテリーヌに、合わせるフォアグラの甘いこと甘いこと。
冷製季節の野菜蒸し煮 コリアンダーを散らして。
先述した「調理場という戦場」でこのお料理ができるまでの過程が描かれていたこともあり、初訪問で衝撃を受けた1皿です。
ほんのり酸味を加えて味を付けた野菜の蒸し煮、というだけのことなのですけど、野菜の持つポテンシャルが爆発的に膨らんでストレートに伝わってきます。
シェフの伝えたい思い、表現力にただただひれ伏すのみ…‥と思いながら何度も何度もいただいてきました。
黒トリュフ入りのかき卵 ワイン・ソース。
続いては、「十皿の料理」というシェフの別の著書に紹介されていた、ずっと食べたいと思っていながらついぞここまで食べることなく最終訪問となってしまったお料理です。
写真では見たことがありましたが、どんな食感、味なのか想像が付かずにいました。
イメージしていたより、のっぺりと卵黄の濃厚な舌触りの中にこれでもかと黒トリュフが散りばめられています。
赤ワインのソースは、その色に反してこのお料理に明るさを与えています。
シンプルな組み合わせ技のようでいて、予想だにしなかったホップステップで天空に連れて行かれたような想像と到達点の間に距離のあるお料理でした。

黒トリュフのパイ包み焼き グリーンサラダ添え。
同行した方が熱望したのはこちら。
この1皿のおかげで僕はここにいると言っても過言ではありませんありがとう。
パイの焼き色が美しいです。
影のように広がるペリグーソース。

分厚くスライスしたトリュフでフォアグラをサンドしたパイ包み。
フォアグラのジューシーさであったり、甘酸っぱいペリグーソースであったり、これだけ贅沢に使ったトリュフを盛り立てている技が繊細。
大根かにんじんかと見間違えるほど、分厚くスライスされた黒トリュフ。
「トリュフはアゴで味わうもの」という言説を見たことがありましたが、あれは本当。
今初めて自分はトリュフを知ったのではないかとさえ感じました。
パイ包みはサラダ添えでした。
さっぱりしたドレッシングで美味しい。
長崎産ハタの蒸し焼き 魚のスープと共に。
凄まじいパイ包みの後にお魚の蒸し焼きというのはかなり不利な戦いになるのでは……という心配もよそに、これまたすごい1皿。
ハタの身が締まりすぎるわけではなく、かといってやわらかすぎることもなく、パツパツに内からエネルギーが溢れ出しそうな生命力のたぎる食感に仕上がっているのです。

魚のスープというのは、かなりスパイシーなブイヤベース。
暴れ馬のように躍動感のあるハタを、静かに制圧するような旨みと風味の力強いスープでした。
シストロン産仔羊のロースト タイム・ソース。
2000年代からしばらく輸入が禁止されて、再び解禁されて少し経った頃に1度「コートドール」さんでいただいていますが、名物ともいえるこのお料理を最後にいただけて感無量です。
一瞬口当たりやわらかな錯覚があった後、弾けるようなエネルギーを秘めた歯応えと、脂と赤身の味の濃さをギュッと丸めてパシッと投げつけられたようなパンチの強い素材の味。
超弩級のお料理が3つ続きましたが、比べようという頭にもならず、重くもならず、ただただ感心、感動を繰り返していたらあっという間に通り過ぎていました。
食材が素晴らしいものであろうことは想像に難くありませんが、カンマ1ミリ、カンマ1秒を逃さないような火入れですごい。
別皿でジャガイモのグラタン。
注文しすぎでかなり皿数が多くなっていますが、お料理に合わせるこういう1皿もシェフの伝えたい味の補助線のように思われて1つ1つ興味深くいただきます。
メインに合わせてワイン。
ここからデザートに移ります。
デザートも引き続き、気になるところを、悔いの残らないように。
苺のスープ ワイン風味。
メニューに載っていると避けて通らない大好物のひとつだったので、「コートドール」さんのデセールの中で最も食べさせていただいたデセールだったかもしれません。
果物を使ったお料理やお菓子というと、その果物をその果物より美味しく感じさせるものだと嬉しいですが、この苺のスープは苺自体の味を残しつつスープが甘み、酸味、香りを上乗せしていてまさにそれです。
苺がじゅっととけて消えて、香りが残ります。
食事の終わりが目の前に近付いてきているのを感じて、この辺りで急に寂しくなり始めました。
焼き上げ酸果桜桃のミニパウンドケーキとシャーベット。
初めて注文しましたが、ミニサイズのパウンドケーキが1本丸々出てきました。
ミニサイズとはいえ、かなりのボリュームです。
「焼き上げ」ということで、焼きたてなので香りが凄まじいです。凄みがあります。
これをカットすると断面から一段階上の香りがして、口に入れるとさらにギアを上げて風味のボリュームが増していって思わず笑ってしまいました。
酸果桜桃というのはさくらんぼの一種。
香りでいうとバターをはじめとした生地の香りがダントツで強いですが、食べると酸果桜桃の酸強めの甘酸っぱさがかなり効果的に利いています。
ミニャルディーズ。
フィナンシェ、マカロン、生チョコレート。
ハーブティー。
自分の人生において大事な場面や、大事な人と過ごした場所で、1番好きなお店として絶対的な存在になっていたので、閉店は想像以上の喪失感がありました。
自分が若いうちに出会ったお店だったということもあって、もう今後こんな存在とは出会えないのではないかと不安にすらなっています。
まずは多くの幸せな瞬間をいただいたシェフ、お店のみなさんには大きな感謝を。
またこのようなお店との出会いがあるかは分かりませんが、そんなに重くは考えすぎず、「美味しいものを食べたいな」と色んなお店に行ってみるということをまずは続けていきたいよなと自分の心に確認しながら、大大大大大大大大大満足でごちそう様でした。