お昼は六本木。
初訪問のフレンチへ。
ル・スプートニク。
代官山にあったル・ジュー・ドゥ・ラシエットでシェフを務めた高橋雄二郎氏が2015年に独立開業したお店。
個人的には前店を離れるギリギリ最後に伺って、新しいお店も…と思っていました、3年も経ってしまいました。
店名の「スプートニク」はソ連の世界初の人工衛星の名前として知られますが、元はロシア語で「旅の同行者」の意味。
お店が作り出す創造的な料理という旅に、我々客が同行者として誘われるというコンセプトだそうです。
ドリンクはジンジャーエールを注文。
ご丁寧に「ドリンクは絶対というわけではありませんので」とお声かけいただきましたが、この日は狙うところがあったのですよね。
1品目は萩の甘鯛、桃、紫バジルの花。
細かくカットした桃を、1週間寝かせた甘鯛で巻き込んであります。
むっちり噛みしると、はらりほろりと桃がこぼれ落ちます。
熟成した甘鯛は生ハムにも近いですかね。
バジルの花は、想像したよりはっきりバジルの香り。
続いて枝豆のチュロス。
ルジュードゥラシエットのときはゴボウのフリットの上に前菜を置く演出がありましたが、今回も
「下の枝豆も召し上がれます」
とのこと。
ほんのりと温かみの残ったチュロスは、枝豆の甘みがやや強調された味わい。
浅い火入れの枝豆をつみとりながら食べ進めるのですけど、これは絶対に人と来ておしゃべりしながらいただくべきだと思いました。
若鮎、すいか、ししとう、青トマト。
米粉を付けて揚げた若鮎と、すいか、赤ワインビネガーのソース。
ししとうと青トマトのフリットを添えて。
赤と青のコントラストですね。
ぽくぽく弾ける米粉の食感が印象的。
瓜の香りをさせながら、蓼酢をマイルドにしたような酸味のすいかのソースがとても面白かったです。
鮎に合っていたなあ。
ビーツの薔薇。
お店のスペシャリテですが、1日に作ることのできる数が限られているため予約時に伝えるなどする必要があるそう。
僕もお願いしてありましたが「既に予約が結構入っていて当日まで分からない」と言われていました。
写真では何度も目にしていましたが、実物を見るとしばらく言葉を失って見惚れてしまう美しさ。
ちなみにジンジャーエールを注文したのは、ロックバンドくるりの名曲「ばらの花」の歌詞「飲み干したジンジャーエール」にちなんで。
この後ぐびっと飲み干してもう1枚、と思ったら出来るサービスマンがサッと現れて「何かお飲みになりますか?」とグラスを下げてくださいました。
ペースト状にしたビーツを特製の型で成型してチップスにするのだそう。
食べ始めるのに勇気が要ります。
僕が接写ばかりしているのを見かねてか、
「おすすめは、引きの画です」
とアドバイスしてくださったので、こんな1枚も。
なるほど、ソースをはじめとしてプレート全体で1つのアートになっていますね。
1枚手に取るとこんな感じ。
香ばしさと甘さの組み合わせは、イメージとしては見た目も似ていますが紫芋チップスみたいな感じかも。
ベースのフォアグラ、ビーツのゼリーシートの華のある甘みと相性がいいですね。
プレート全体としてはビーツに偏り気味の薔薇ン…バランスではありますが、薔薇の花だけでいえば見かけ倒しではないちゃんと美味しい料理で、失礼ながら驚かされました。
白い"煙"が少しだけ漏れながらこちらが登場。
蓋を外すと「何か焦げてるのではないか」と勘ぐってしまうほどの"煙"の中から現れたのは…
ま…真っ黒の……何か…?
まじまじと目を凝らしている僕をしばらく見守っていたサービスの方から、満を持してご説明によると…
岩手の岩牡蠣に竹炭のパウダーをまぶしてムニエルに。
下には揚げ茄子を敷いてあります。
ソースはロックフォール、ミルク、ヨーグルト、焦がしねぎ油…「洋風なので焦がしねぎオイルと言わせていただきます」とのこと。
絶妙な火入れでとぅるんと艶めかしいやわらかさ。
揚げ茄子とも食感が似ていて面白いです。
ロックフォールはほのかに香らせて、ヨーグルトのさっぱりした感じを活かしたソースが特に秀逸でした。
魚料理、この日はキンメ。
覆い隠しているのはボイルしたキャベツ、ソースは発酵キャベツにクミン、白ワイン。
下には焼きキャベツ。
ソースの発酵キャベツは、甘みよりも旨み。
白ワインのシャープさが目立って、後からクミン。
ボイルキャベツ、焼きキャベツと、それぞれ違いがくっきり分かってそれだけでも楽しい1皿になっていますが、キンメとの組み合わせも新しいですね。
芯をピンクに残した火入れが素晴らしいですね。
生のようなとろけ感を残しながら、脂の香りはもちろん身の旨みも引き出す火の入れよう。
説明で強調された通り皮目もパッキパキに仕上がっていて、思わず向こう正面から写真を撮ったら自分が写り込むミスを犯しました。
キンメの赤い皮目に、緑のソースを合わせるところに、フランスでパティシエとしての修行経験もあるシェフのセンスが垣間見えます。
メインはシェフが得意とする鹿肉。
シンタマのさらに中心であるシンシン。
添えられているのはペコロスとピオーネ、ソースは血と内臓を使った赤ワインのソース。
ペコロスと言われたと思いますが、パールオニオンだったかもしれません。
火を入れた最後に表面に焼き目を付ける、という順番で、焼きの香ばしさがより残るのだとか。
火入れの順序によるものなのか、表面がさほど伸縮せずに焼き目が付いているのが面白いです。
なぜか「ハンバーグっぽいな」と思ってしまったのはその辺りの影響があるかもしれません。
ここまでいただいて、サービスの方に感想を聞かれてお答えしたのですけど、どのお皿もメイン食材もさることながら、合わせるものがとても印象に残りました。
若鮎とすいかのソース、キンメとキャベツ、そしてこのお皿では鹿とピオーネ。
見た目の華やかさと、味の華やかさが、どちらかに倒れることのない、アイディアだけでない完成度の高いお料理の数々でした。
デセールは、薄く焼いたショコラのビスケットをショコラのムースを挟んで重ねたもの。
底にはカモミールとショコラのソースと、オレンジのソルベ、バニラのアイス。
ショコラのビスケットは、味には厚みがあってかなり濃厚。
オレンジとの組み合わせは鉄板ですね。
カモミールの香りは、オレンジに変化を付ける感じ。
アイスを使っているので早く食べた方がいいかとも思いましたが、時間が経つとよりそれぞれの味が干渉し合って面白かったです。
外れるワケのない王道の組み合わせでしたしねえ。
食後のドリンクはハーブティーに。
小菓子はシュークリームと、オーグドゥジュールの系譜の代名詞ともいうべきブランマンジェ。
和三盆と抹茶の組み合わせ。
プチサイズですが、クリームでずっしり。
ほうじ茶のブランマンジェ、エキストラバージンオリーブオイル、岩塩。
食べる前は、ブランマンジェに対して岩塩が多いかとも思いましたが、これで岩塩が勝つくらいのバランスでも不思議と美味しくいただけました。
この日は、個室にはお客さんがいらっしゃったようですが、あとは僕の貸し切り状態で、サービスの方とたっぷりお話できて充実した時間を過ごすことができました。
飲食業は、中の人と客とでまったく認識が真逆なことが多くて、客としては少しでもそのことを知るべきだと思うのですけど、中の人は「その"ギャップ"をいかに感じさせずに過ごしてもらうか」そのマジックがプロの追い求める仕事だったりするのですよね。
お料理は複数人で行って、お料理の演出にリアクションをしながら食べたくなるものでした。
前のお店や2人で伺って、とても楽しかった思い出があります。
また次の季節のお料理が楽しみになりました。
ごちそう様でした!