お昼は久しぶりに白金高輪のコート・ドールさんへ。
前回訪問時に入念に確認したデザートをいただきたかったのでこの時期を狙っていたのですよね。
雰囲気のある入り口。
ランチセットをお願いする予定ではありますが、一応メニューに目を通します。
そしていざ店内へ、重い扉を開く心は軽やか。
1,2回目は同じ席に案内されていましたが、今回初めて別の席に。
2方面を全面窓に囲まれ開放的、印象が違って見えました。
お店の方の落ち着いて響く低音の声、お皿やカトラリーが当たって踊るような高音。
張り詰めて心地よい空気に、静かな室内楽、ちょうど目をやった先に配置された絵画を旋律に合わせて視線でなぞるうち空間に吸い込まれそうに…
桜海老のトースト。
アミューズは前回と一緒でした。
バゲットに桜海老、チーズを乗せてトーストしたもの。
しっかりした味のチーズに、馴染みある香ばしい桜海老のニュアンス。
お好み焼きでありそうな組み合わせですが、新鮮な驚きを持って感じられる香りのバランスです。
バゲットは変わっていなければヨハンさんのもののはず。
温めることもせず、「主役は料理だからね」とあえてメッセージを送られているような気持ちになります。
前菜に選んだのは鰆の燻製。
半身の状態で燻製にかけ、提供前に切り出して天火で軽く温めて提供しているとのこと。
わりとしっかり火を入れたことによる旨みが出てきています。
魚の脂乗りに頼ることのない力強さと、それを何か裏付けるかのような燻製香の演出。
胡椒と下に仕込まれたエシャロットの香りも印象的に抜けます。
下敷きになっている野菜は、色味的にビーツかと思っていましたが食べてみると大根のようだったので紅芯大根だったのかもしれません。
サイズのありそうな鰆、さらに厚めのカットでボリューミーな前菜でした。
他にスペシャリテの野菜のエチュベも選択肢にありましたが、初めていただくこちらをチョイスして大正解と思える1品でした。
でも次はまたエチュベもいただきたいなあ。
メインはお魚をチョイスしたので、コート・ドールさんではフィッシュナイフが供されます。
ソースが美味しいので最後まで掬い取って食べ切るのに活躍してくれるのです。
メインは黒カレイのポワレ、パプリカのソース。
ガルニはブロッコリーのソテー。
シンプルですが貫録あり、彩りあり。
隙のない1皿です。
表面と中の食感はやさしいメリハリ。
表面から浸透したバターと魚の脂がズブズブに癒着、旧知の仲かのようにソースを迎え入れます。
この香ばしさよ。
シンプルながら鮮烈にパプリカを効かせたソースはバターベースなのですが、どうにもクリームを感じたのでお店の方に、
「クリームも使っていますか?」
と伺ったところ、指を視力1.0くらいの大きさのCの形にして、
「ちょっっとだけ」
と教えてくださいました。
なるほどなあと感じる「バターベース」よりさらにちょっとコクのあるソースでした。
僕のような素人でも気になったということは、その「ちょっっと」に大切な光るものがあるのかもしれません。
口直しに夏みかんのソルベ。
酸味と苦み。
キューッと感覚をリセット。
そしてデザートは和栗のモンブラン コート・ドールスタイル。
背が低くて平たく広いのが印象的。
ペーストも仏栗みたいな色、質感ですね。
実はランチのデザートは別のもののようでしたが、
「追加料金を払うのでモンブランに替えていただけますか?」
とお願いしたところ、
「ご用意させていただきます」
とのことでお出しいただけたのです。
マロンペーストは結構クリームを前面に出したもの。
中にはクリームも入っていて「クリームクリーム」した感じになるかな…
と思いきや、ダイスカットの茹で栗がゴロゴロ入っていて「栗!ムム!栗!ムム!」した感じの印象に仕上がっていました。
メレンゲは「さっくり」の中でも手応えのある質感。
上品で力強い味わい、モンブランの軸になっていました。
念願のモンブラン、想像以上に作り込まれた、そして考え抜かれた1品に感じられました。
モンブランとしては王道を外れた感じもありますが、栗を美味しくいただくデザートとしては最高峰と言ってもいいような気がします。
お茶菓子はフィナンシェ、生チョコ、ヘーゼルナッツのマカロン。
これも1つ1つ完成度が高いです。
特にフィナンシェとマカロンは香りがとてもよかった記憶が鮮明に残っています。
コーヒーは途中注ぎ足してくださって、たっぷり2杯。
ひとりなのにのんびり過ごさせていただきました。
凝り固まることなく、それでいて確実な安定感を誇る。
貫録の「クラシカルフレンチ」を全身に感じることができました。
「クラシカル」、すなわち「古典」と言ってしまうと古臭いものという先入観が入ってしまうかもしれませんが、語源的にはclassなどと同じで「階級」。
それも古代ローマの"最上階級"に語源をもつ「クラシカル」。
気高く、むしろ「王道」に近いものを感じるお料理でした。
また伺います。