2月18日(土)、この日のランチは予約してあった三田のコート・ドールさんへ。
個人的には2度目の訪問。
来よう来ようと思いつつ何となく後回しにしてしまっていましたが、
斉須シェフの著作「調理場という戦場」「十皿の料理」の2冊を読み返したらあっという間に予約の電話をかけていました。
偶然にも前回と同じ席。
確認できただけでも僕以外にも2組の男性おひとり様がいらっしゃったので「おひとり様ならこの席」というわけではなさそう。
サービスの方は前回と同じ顔ぶれの4名で、なんだか懐かしい気持ちになりました。
メニューの説明を受けて、注文はお昼のセット(5000円)に決定。
アミューズ、前菜、メイン、アヴァンデセール、デセール、カフェの構成で、
前菜・メインはプリフィックスが基本かと思いますが、この日は前菜の選択肢はありませんでした。
前菜で迷いそうな予感がしていたので、むしろ助かったかもしれません。。
ミルひとつを取っても画になるので、ついつい写真を。
卓上に塩、胡椒を用意するフレンチも最近では珍しいのではないでしょうか。
普通のお店だったら「味に自信ないのかな?」と思ってしまうところですが、
このお店で出されるとシェフの強い信念のようなものを帯びて見えて、迫力さえ感じます。
アミューズは、海老のトースト。
薄くスライスしたバゲットに桜海老とチーズを乗せて、カリッとトーストしてあります。
「よろしければ手に取ってお召し上がりください。」
桜海老の視線を感じながら、ガリッと。
チーズの芳香が中心、少し桜海老を香らせながら噛んでいるうちにバゲットの香ばしさ、さらには小麦の甘みが追って現れます。
バターも塗ってあったかもしれません。
チーズはグリュイエールだと思いましたが、こちらのお店のチーズ盛り合わせは「フランス産」に限っているようだったので、
チーズはフランス産にこだわっているのだととしたらコンテだったのかもしれません。
「どうぞ。」と差し出されたカゴいっぱいに入ったバゲットから、自分で選んでお皿に。
特別なバゲットというわけではなく、温めることさえせず、バターも普通。
でもなんだかこれがいいんだよなと思わせるところがコート・ドール。
前菜はマグロのタルタル。
くっきりとした配色、活き活きしていますね。
菜の花は、浅めに火を入れてどこかのタイミングでオイルも足して仕上げてあるよう。
青々とした色味、香り、中はやわらかく表面は張りのある食感。
マグロはバチっぽかったと思います。
魚の質自体は特筆するものはありませんが、エシャロット、オイルなんかでマリネしてあって口当たりよく、
まったりとした脂と燻製に近いような香りが鮮明になっていました。
多分黄色いのは卵黄なのだと思います。
卵とエシャロットと、ヴィネガーにオイル・・・、なんだかタルタルソースができてしまいそうなタルタルだななどと考えながらいただきました。
マグロは筋周りのしっかり脂の入ったところと、酸味が強いところと色んなのが入っていて楽しめましたよ。
メインは蝦夷鹿のロースト 赤ワインソース。
ドスの効いたロゼ色が、キラッキラ、キラッキラと輝きます。
付け合わせもちょっと面白かったのですよ。
こちらは根セロリとリンゴを混ぜたマッシュポテト。
子どもの頃母がたまに作ってくれた"セロリの入ったパウンドケーキ"を思い出しましたが、セロリって意外に甘いのに合うのですよね。
もちろん、さらに赤ワインやお肉と合わせれば、個性的な香りが唸りを上げてデミを彷彿とさせるボリューム感のある風味に。
「ムラサキキャベツは酸味のあるドレッシングで和えてあります。」
こちらも1度ベーコンと炒め合わせてあるのか旨みのある脂がしっかり浸みて、逆に言うほどの酸味は感じなかった印象。
どちらの付け合わせも赤ワインのソースに浸かってしまっているのですけど、この相性がばっちり。
むしろソースと絡めながらいただいたほどでした。
そしてメインのお肉。
蝦夷鹿ってかなりやわらかい肉質で、ともするとふにゃふにゃの食感になってしまうところですが、
こちらは食物繊維でも入っているのではと思ってしまうほどの、芯の部分の歯応えに力強さがありました。
あふれる肉汁には、"クセ"といってもいいくらいの香りがあります。
その"香り"と肉の旨み、さらに焼きの風味とソースがせめぎ合って、嫌味になることなく膨らんでいくのですよね。
美味いものを食ってる、という純粋で確固たる満足感。
ソースは赤ワインが強烈、そこにブラックペッパーが香ります。
さらに言うとホースラディッシュのような爽快な香りも感じて、お肉との橋渡しがなされているように感じたのですけど、
それは赤身肉と合わせたことで錯覚しただけだったかもしれません。
口直しの小田原産キウイのソルベ。
前回はみかんのシャーベットでしたが、やっぱり酸味のあるフルーツを持ってくるのでしょうね。
甘さも加えてありますが、やっぱり印象的なのはキュッと締まるような酸味。
種がぷちぷち弾けて、はっきりそれと分かるキウイの香りです。
デザートはココナッツのブランマンジェ。
白に白に白に白です。
ちょっと右に見切れているスプーンは、あえて先の方をお皿の方に近付けて斜めに配置してくださっていて、
「さあ、お食べ!」
と促されているようなのですよね(笑)。
言われなくても!
甘さのないココナッツミルクに浮かぶブランマンジェ、コクのある甘みも浮かび上がります。
スプーンを入れるとまったく跳ね返りのない、言わば"立体的液体"状態のやわらかさ。
タイプ的にはイル・プルー・シュル・ラ・セーヌの弓田シェフのレシピに近いように思います。
親交のありそうな四ツ谷のフレンチ北島亭の北島シェフはイルプルのルセットを使っていると本で読んだことがありますし、
斉須シェフの著書にも弓田シェフに言及されていたので、あながち突拍子もない話というわけではないと思うのですよね。
お肉料理で強めに満足していたのですけど、それと並ぶくらいのパンチをもう一発もらうほどに美味しかったです。
食後のドリンクは紅茶を。
余韻に浸りつつ、ちびちびといただきます。
メレンゲのお菓子、フィナンシェ、オランジェット。
フィナンシェは融け出しそうなバター感とバニラの香り。
オランジェットも自家製のようで、やわらかなオレンジピールとビビッドにビターなショコラがけ、かなりインパクトがありました。
細かなところまで手が込んでいるなあと感心しながらいただいていましたが・・・
ミルクもフォームドミルクになっていました。
今回の蝦夷鹿なんか顕著だったのですけど、
誤解を恐れずに言わせていただくと、こちらの料理って「特別なこと」をしているわけではなく、
一見やれば自分でもできてしまいそうに感じられるのですよね。
こんな簡単なことで、こんな感激するようなものができてしまうんだな、なんて。
でももちろん実際は、自分でやってみると"そこそこ満足できる"くらいにはなっても、
感情のリミットを超えて"感激する"ものなんてなかなかできたものではないのですよね。
シェフがフランスで学んだことの中に、
「簡素なものでもきちんと天準を誤またなければ、品格を伴って僕たちに迫ってくる」
「ごく当たり前のものであっても、素材相応のおいしさが光っていれば、ひとつの料理としての格を持ちうる」
という表現があって、まさしくそれが体現されていると感じました。
逆に、こちらで食事をすると斉須シェフの「言葉」「表現力」も改めて見事だなあと思わされるのですよね。
また本を読み返して、また食事をしに来て。
繰り返しているうちに少しずつでも我が身に付くものがあるといいなと思います、お腹周り以外で。