フレンチ納めをしようかなと思い立ったのですが、世間はクリスマスシーズンにまさに突入しようかというところ。
どこも予約は埋まってしまっているかなーとダメ元でお電話してみると…
幸運にも最初にかけた広尾のOdeさんが
「おひとりならイケます!」
とのこと。
というわけで2ヶ月ぶり2度目の訪問です。
カップルばかりで肩身の狭い思いをする覚悟もできていましたが、他のお客さんも案外そういった雰囲気でもなくムクムクと幸福感が心の中で膨らみ始めます。
ガラス張りになっている通り側は今回ブラインドが下げられていました。
グレーが基調なので、光が入るかどうかで白と黒が裏返るようでもあります。
店名入りの提灯(笑)。
前回もあったかな?
最初のアミューズはドラ○ンボール。
てっきり7回訪問すれば願いが叶うものと思っておりましたが、今回も一星球でしたので1つ目で足踏みですね。
オマールの出汁と生クリーム、マスカルポーネのムースを、オマールの香りを付けたカカオバターで包んであります。
このカカオバターが想像したより薄氷な造りで、口に入れた途端にパッと割れて驚く間もなく甲殻の香り。
これは7つの球を集めた暁には、8つ目の球を願い事にしてしまいそうな摩訶不思議アドベンチャーでございました。
「ドラゴ○ボールに続いてはドラゴ○クエストの…」と提供されたのがこちら。
スライム型の甘く炒めたメレンゲは、下からフォアグラのムース、そして何といぶりがっこを詰めて、最後に砕いたアーモンドとほうじ茶パウダーで蓋をしてあるものでした。
こちらもメレンゲが想像したより軽く、パッと弾けてすぐにフォアグラの香り。
じわじわといぶりがっこの食感が出てきたと思ったら燻製香が漂い始めました。
ちなみに下に敷いてあるのは茶葉。
「一応食べられないことはありません」
とのこと。
銀の…ではなく金の匙。
こちらを使っていただくアミューズは…
グラスで登場。
透けて見える、匙に負けない輝きを放つ金色。
ジャガイモのムースはバニラの香り、ゴールデンキャビアとも呼ばれるニジマスの卵もバニラオイルで和えてありました。
トップには菊花とディルの花。
アミューズでここまでバニラの香りをメインに持ってきたものは初めてかも。
川魚の卵はこういう色だったりするようです。
ちょっとニジマスの卵の塩味が強くてバランス的にはイマイチな気もしましたが、華やかで面白い1品でした。
続いてはメレンゲを使ったシグニチャーの1品。
前回は秋刀魚でしたが、鰯になっていました。
鰯の骨を使ったメレンゲの下に、ローズマリーの香りを付けた鰯の身。
尾崎牛のタルタル、レモンクリーム、茴香のサラダ。
メレンゲはガッツリニンニクとアンチョビが効いて、全体的には酸味のパーツが多く、見た目はセンセーショナルですが食後感としてはカルパッチョっぽいところに落ち着きます。
こちらは前回と同じ。
ここまで冷前菜が続いてきましたが、突然「絶対温かい香り」が漂い始めます。
さつまいもと鱈白子の上にフランス産トリュフを削り、熟成黒にんにくをトッピング。
仕上げに自家製の発酵バターをで酸味を加えたというミルクフォームを被せて完成。
前回も同じ説明だったのですが、言うほど発酵バターは酸味を出していないかも。
あえて言うなら黒にんにくが果実味のあるフレーバーだったかと。
トリュフの香りは添える程度で、バターの深い温もりを感じさせる印象が全体を包みます。
ちょっと生々しいのほどの鱈白子の出汁もリゾットに浸透。
目の前で要素をはっきり見せながら仕上げてくださるのである程度味の想像はできていたつもりでしたが、バランスで結構裏切られました。
「そうきたか!」と胸を射抜かれる1皿。
魚料理、ですが見た目の印象は白身を踏み台に緑や茶色を際立たせるような色使い。
器の黒さえ華やいで見えます。
海というよりなぜか大地を感じさせますね。
函館産の鱈のポワレに、しいたけは確か出汁で炊いたもの。
鱈の上にはおかひじき、他に添えられているのはほうれん草で包んだキノコのディクセル、ホタテのチップス。
ソースはしいたけのソースとほうれん草のソースの2色。
鱈はしっかり火が入って、独特の香りがバターの厚底を履いて少し大きく見せているような、堂々たるインパクト。
しいたけのソースは、和風とか中華のあんかけにも近いような印象でした。
キノコのディクセルはマッシュルーム中心かな?
こちらも全く抜かりは感じられない、高貴で濃厚な香り。
ここでタイミングを合わせて焼き上げられた自家製のフォカッチャが登場。
「ソースにもよく合うように調整してあります」
これ前回もびっくりしましたが、控えめに言って料理を食うほど素晴らしいと思います。
この日は後半で、フォカッチャを焼いているというパティシエの方が名乗り出てくださったので、直接大絶賛をお伝えすることができました。
お肉料理は福島県の川俣シャモ。
シャモ?と疑問に思いましたが、時期が時期なので鶏系をチョイスされたということでしょうか。
シャモの胸肉でモモ肉と豚耳をミンチにしたものを巻き込んで焼いてあります。
エスプーマになったソースはセップの香り、下に敷かれているのはシャモの出汁とフォンドボー。
シャモの味わいがシャープ、もっと言うと淡泊。
中のミンチは胡椒をビリリと効かせているのはお見事なアイディアに感じました。
あやめかぶに蕪のスライス、そしてハイライトは右手前の"丸っこいの"。
ニョッキみたいですが繊維質を丸めたようにも感じられて、
「大根おろしを揚げたのかな?」
などと想像したのですが、聞いてみると蕪で作った大根餅、
「言わばかぶ餅です」
とのこと。
もちっとしてシャクッとして、甘くて香ばしい。
とても印象に残りました。
こちらも抜かりなく細部まで素晴らしかったですねえ。
デセールは藁の香りを付けたフォンダンショコラ、藁の香りのアイス。
かなり強い藁の香り。
パティシエの方に「いかがでしたか?」と聞かれて「想像したより香りが強くてびっくりしました」とお伝えしたら「申し訳ないです!」と謝られてしまいました。
もしかしたら"挑戦的に強めに"香りを付けて、客の反応を気にされていたのかもしれません。
アマゾンカカオの酸味を引き出したショコラ使いに強い香りで、およそ「スイーツ」っぽくない味わいでしたが、これくらいインパクトを出していらっしゃるのは大いに応援したいところ。
甘さを感じさせないので、インパクトが強いからといって重たくないのもポイントです。
散らしてあるのはマガンボーというカカオの親戚のようなものをプラリネにしてあるのだとか。
香ばしさでショコラのキツさを緩和させているのかな。
フォンダンショコラの奥にチラッと見えるのは(見えない)金柑のコンポート。
ショコラとの相性、微妙に足したかった甘み、こちらも欠けていた穴をピタリと埋める1ピースに。
アイスは香りこそ弱かったように思いますが、攻めの温度管理で"融けている"と言っても過言ではないほどとろっとろ。
これも個人的には好みにハマるポイントでした。
食後のドリンクはいくつか選択肢がありましたが、熊本県産のシナモンと山椒の香りを付けた和紅茶というのをいただきました。
たっぷり3杯分くらい。
お茶菓子は前回と同じあんぽ柿。
あんぽ柿のシートで酒粕とクリームチーズ、そして刻んだあんぽ柿を包んだもの。
全体を通して、メインよりもアミューズだったり、1皿の中でも脇役の部分だったり。
意外なところの方が印象に残るような、サプライズ感の続くコースでした。
前回と被ったお料理もチョコチョコありますが、1回目よりも大分はっきりと良さを拾いながら味わうことができたような気がします。
香り、味わいの重ね方がかなり多重なので、慣れないと見逃すところが結構あったようなのですよね。
そして、今回は細かいところまで気を配った食感の良さも印象に残りました。
強く個性的な食感のインパクトを残すのではなく、一瞬の軽い気泡が弾ける程度の出来事を見事な演出で脳裏に刻むような。
そんな生井マジックを感じたように思います。
というわけで、前回よりはっきり「良いな」と感じました。
お店が良くなったというより、より深いところまで見えてきたという感じ。
また来年もぜひ伺いたいと思います。
ごちそうさまでした!