お昼は気になっていたお店に初訪問。
sio。
2016年から「Gris(グリ)」のシェフを務めていた方が、オーナーからお店を買いとる形で同地に今年自分のお店をオープン。
「海賊料理人」とも呼ばれるシェフの、常識をぶっ壊す哲学が痛快で気になっていたのですよね。
シェフの哲学のひとつは「食材の原価は落とし、他の部分にお金をかけて全体の満足度を上げる」というもの。
基本的に飲食店は「食材の原価の高さ」を強調するものだと思いますが、全く逆をいっていらっしゃるわけです。
例えばこのハンドタオル。
業者に機械的におしぼりを頼むのではなく、自分のお店で洗っているのだそう。
分厚くふかふかな、そして熱々のタオルを手に受け取ったときから、お店の熱量をビリビリと感じさせられるような気持ちになります。
台湾茶をベースにしたノンアルコールペアリングのメニューがあったのでお願いしてみました。
最初は、ジャスミン茶にりんごのビネガー、エルダーフラワーで香りを付けて炭酸を添加したもの。
ジャスミン茶とエルダーフラワーの香りでリラックス。
机には引き出しが付いていて、カトラリーは自分で出して使うスタイル。
お店は効率化しながら、客の側からするとエンターテインメント性があるという、こちらのお店のコンセプトに合った形ですね。
1品目は「蒲鉾」。
小田原の老舗「鈴廣」さんの特上蒲鉾を使った茶碗蒸し。
鶏の「出汁」ではなく「ブロード」という言い方をされていたのは、フレンチとしての矜持でしょうか。
茶碗蒸しは極緩い仕上がり、澄んだ味わい。
弾力の強い蒲鉾の、ちょっと甘い香りがアクセントになります。
鈴廣さんの公式HPで見ると、蒲鉾のランクが上がっていくにつれ原材料が少なくなっているのですよね。
上品な茶碗蒸しの中にあって、雑味なく収まりのいい、それでいて全てを弾き飛ばすような弾力の特上蒲鉾でした。
シンプルな茶碗蒸しでこれだけの個性を発するとは。
台湾ウーロン茶にビーツの出汁、クランベリーにピンクペッパー。
写真では伝えきれていませんが、鮮やかなピンク色です。
ビーツやクランベリーでフルーティー。
「馬肉」。
ドリンクと統一感のある鮮やかなビーツ色のお料理が出て来ました。
薄く伸ばしたパンの上に馬肉のタルタル、洋梨、ビーツ。
ビーツのパウダーをまぶしてあります。
最初甘みが立ちますが、噛むごとに旨みが出て来ますね。
蜜香烏龍、バンケイ、赤しそ。
"バンケイ"の部分はよく聞き取れず…。
キャラメルのような甘さを感じる1杯。
「鯖」。
鯖の干物をメインに多品目をそれぞれの調理で下ごしらえしてあります。
菊芋のピューレ、ごぼうのフリット。
この辺り土っぽさ。
チコリ。
チコリは甘ずっぱく炊いてありました。
栗の泡。
素朴な香り。
思ったよりも鯖が主張しすぎず、甘酸っぱさを中心に多種多様な香ばしさを感じられる1皿でした。
とても手が込んでいるように見受けられました。
このタイミングでパン。
むぎゅむぎゅモチモチのハード系でした。
金萱茶に柑橘の香りを付けたもの。
次のお料理はパスタなので、さっぱり口直しになるテイストのようです。
「粉」。
ショートパスタでアラビアータ。
トマト、ニンニク、カラブリアの唐辛子。
パスタは、断面がS字になっている「カザレッチェ」というシチリアのショートパスタ。
ソースが極少なめに見えるのですけど、このくぼみにたっぷり絡んでいるので口に入れると驚くほどに濃厚な味わいを楽しめます。
この濃厚な味わいに、あのさっぱりとしたドリンク。
いい組み合わせです。
東方美人に生姜、シナモン、ナツメグ、胡椒。
さっぱりしてちょっとスパイシー。
最後のお肉料理を前にナイフが登場。
こちらはお店の方が出してくれました。
本気感。
ラギオール。
フレンチでは定番、蜂印のメーカーですが、これは牛のマークでしょうかね?
「肉」
鴨のフィレ肉をロースト、ソースはワインの濃厚なヴァン・ルージュ。
添えてあるのは、ヴィネガーでマリネしたアマランサス、その下にセミドライにしたビオレソリエス。
色合い、味わいともに統一感があります。
左奥に配された塩で調和に変化を。
イギリスのお塩だそうです。
味のバランスとしては、やや甘さより。
それでいて大人っぽさのにじみ出た風味です。
北海道のスノーホワイトチェルバリーという鴨肉だそうです。
シェフ曰く「今年の鴨は美味しくないんですよね。痩せちゃって」とのこと。
色は映えないけど、やわらかくて美味しい、シェフの仰る通りの印象でした。
ブリヤサヴァランのアイス、塩のクランブル。
少し塩気のあるアイス、ふわり軽くて、氷の混じらないなめらかな仕上がりです。
伺うと「アイスクリームマシン」で作っているのだそう。
他のお店だと「パコジェット」という他の料理にも使える機具を使われたりしますが、こちらでは「どうせアイスにしか使わないから」とアイスクリームマシンを使うことで、よりなめらかに仕上げられるということでした。
隣りの席のお客さんが
「今日全部美味しかったけど、これが1番。今まで食べたの全部忘れた」
と仰っていました。
持ち帰り用を買えないかとお店に聞いていたので、結構本気だったのだと思います。
パッシートというお酒。
こちらをスポイトで垂らして味を変えて楽しみます。
見えにくいですが、垂らしてあります。
パッシートとアイスというと、鎌倉のお店が思い出されます。
塩気が強めに入ることで、お酒とチーズを嗜んでいるような気持ちになりますね。
紅茶は宮崎県の宮崎茶房さんというところのものだそうです。
「宮崎県にあるから」ではなく「宮崎さんがやっているから」宮崎茶房なのだとか。
量は少なめですかね。
この辺りも回転率を上げる工夫なのでしょうか。
最後に自家製のフィナンシェ。
しっかり焼き込んでカリッとしていました。
お店の前まで見送りに来てくださったシェフと少しお話できましたが、雑誌などで拝見したイメージ通り、言葉に迷いのない方でした。
こういう方のやることというのは、注目していきたいというか、ついつい見てしまうなあと思います。
色々な食材をどこからみつけてくるのか気になったので、選ぶ基準など伺うと「ストーリーのある食材が好き」とのことで、次回からはもっと使う食材について聞いてみたいなと思った次第です。
美味しく楽しい経験ができました。
ごちそう様でした!