ランチは久しぶりにミシュランの星付き店へ。
ずっと再訪したいと思いつつ、信頼のおける方にオススメされつつ、何となく後回しにしてしまっていましたがようやく…
ようやく予約しました。
というわけでやってきたのは外苑前の「フロリレージュ」さん。
2017年6月現在、ミシュラン2つ星に輝く名店です。
個人的には以前南青山にお店があった頃1度だけ伺いましたが、その後現在の外苑前に移転。
ジャンルもフレンチからイノベーティブ料理になり、内容も全く別物にしたと伺っていました。
重い扉を押し開け、店内へ。
レセプションで予約の確認をして、こじんまりといたウェイティングスペースで少し待った後、いざホールへ。
オープンキッチンをカウンターが囲む、正真正銘の「ダイニング」といった構え。
カウンター、壁、スタッフの制服を黒で統一。
シェフは黒い衣装について「僕らは黒子なので」とおっしゃっているそうですが、ここまでいくと黒が主張してしまっています(笑)。
スタートにシェフが挨拶に回ってきてくださいます。
「よろしくお願いします。」
よろしくお願いします!
ランチコース(6500円)にソフトドリンクのペアリング(4500円)を付けていただきます。
まずは食前の1杯、炭酸のぶどうジュース。
オーガニックとおっしゃっていたと思います。
甘みは強めですがキリッとした飲み口で、スッと重さが消えます。
続いて、凝ったセッティングが整いまして。
凝ったメニューが登場。
上から、
投影、とうきび
サスティナビリティー、牛
ヘテロ、牡蠣
ハタ 茄子
分かち合う
レモンのソルベ
贈り物、アマゾンカカオ
の記載。
食材、テーマ、メッセージの入り混じったメニュー。
食べる前に見て、食べながら読んで、食べ終わってから確かめる、このメニューがまず"味わい深い"突き出しの1品と言ってもいいのかもしれません。
投影、とうきび。
「投影」というのは「季節を投影する1品」といった意味合いだそう。
カゴに盛り込まれたたくさんのヤングコーンが目の前に運ばれてきて、そのうちこの1本だけが実は調理された状態だというサプライズ提供でした。
ヤングコーンの中身を取り出して、ポレンタにして詰め直し。
それを焼き上げたユニークなもの。
コーンの自然な甘みが印象的。
もっちり、しゃっきり、ぷちぷち、食感も変化に富んでいて楽しみが多い1品でした。
サスティナビリティー、牛。
干して生ハムのような状態にした宮崎牛・経産牛のロース肉に、燻したジャガイモのムース、パセリのオイル。
ここに目の前で、ビーフのコンソメを注いでくださって完成しました。
サスティナビリティー、つまり食材の持続可能性を訴えた1皿。
じゃがいもは藁の燻製香がかなりくっきり、対してオイルのパセリはそれほど強くなかったと思います。
ただこのねっとりクリーミーなムースにさらにオイルが入って、ゆるやかになめらかになる舌触りには思わず悶絶でした。
静かに芯の強いコンソメも、和風の出汁に近い味わい。
日本人としては目の醒めるような思いでいただきます。
そしてもちろんメインは経産牛。
経産牛というのは「出産を経験した牛」のこと。
肉質が落ちて「廃用牛」として加工品くらいしか使い道のなくなってしまったものを、あえて再肥育することで美味しく提供しているそうです。
確かに身の締まりが強いかもしれませんが、干すことで全く気にならない食感に。
味はとても濃い肉で、じゃがいものムースやコンソメとのバランスもパーフェクトとしか言いようのない完成度でした。
合わせるドリンクは紫蘇ジュース。
紫蘇の香りはほどほど、使っている砂糖がいいのかまろやかな甘みが心地よかったです。
肉の旨みがかなり強いので、コンソメ、じゃがいもでまろやかにしてなお、紫蘇ジュースでなだめるべき威勢が残っていました。
酒粕の蒸しパン。
移転前と変わらず駒場東大前の「ル・ルソール」さんの特製だそうですが、かなり特殊なパンに変更になっていました。
いわゆる「万頭」のような、中華まん系の蒸しパン。
ただ食べてみると甘みは抑えて塩気をやや出してあるので、最初はちょっと食べ慣れませんでした。
お店からの「メッセージ」。
「よければお読みください」とのことでした。
シェフが各所で訴えている「食品ロス」の問題ですね。
のちにメインで登場する近江鶏のローストを、このタイミングで見せてくださいます。
メインの名前は「分かち合う」、この1羽をみんなで分かち合っていただくわけですね。
ご覧の通り、既に解体は始まっていて、予約時間が遅い席ほどボリュームが減った状態で見ることになるようでした。
ヘテロ、牡蠣。
ヘテロ、「相反するもの」ということで温かいものと冷たいものを合わせた1皿になっているそう。
おかひじきで包んで揚げた牡蠣、その上に牡蠣のペースト、おかひじきのサラダ。
液体窒素で冷やしたというレモンのメレンゲから立ち上る霧をまとって登場しました。
カリカリ、シャクシャクと独特の食感に揚がったおかひじき、牡蠣はちゅるりとレア。
牡蠣自体の味はそこそこですが、にんにくの効いた牡蠣のペーストの味がかなり強かったです。
「おかひじき」の名前は、陸で採れる野菜でありながら葉の形がひじきに似ているところから付いているそうですが、香りにもどこか海藻の磯っぽさに近いものがあるのですよね。
牡蠣とおかひじきの、互いの磯っぽさを高め合う切磋琢磨。
珍しい組み合わせのようで妙にしっくりくるなあと思っていましたが、某イタリアンで何度もいただいているコンビでしたね。
揚げた牡蠣の熱々、メレンゲとサラダのひんやり、に続いて添えられているのは温かい牡蠣のクリームスープ。
穏やかな塩気で磯の香りが強め、クリームとバターでコクのある重めの味わいに仕上がっています。
合わせるドリンクはひんやり、「食感のあるドリンク」との説明。
ノンアルコールビールにイエロースパイス、デコポン、レモンのシャーベット、パッションフルーツを入れたものです。
こちらをスプーンですくいながらいただきます。
添えられたレモンのパウダーは、ビターさの際立つもの。
このドリンクに関しては、いい味とは感じられず。
狙いとしては、カキフライにレモンをキューッと搾ってビールをグビグビ…みたいなことかな?と想像して面白くはあったものの。
原体験のない僕には分からなかっただけかもしれないので、他の方の意見も伺ってみたいです。
ハタ 茄子。
ガラッと色合いの変わった1皿、紫蘇を使ったソースなのだそうです。
紫蘇とおかひじきがコースの中に随所で使われていたようですが、テーマ食材だったのでしょうか。
ハタはほどよく厚みのある切り立てで、やさしい歯応え。
白身らしくすっきりした旨みと、かなりの脂乗り。
とてもいいハタでした。
ハタが素晴らしすぎて、紫蘇の香りが飲み込まれてしまっていたほど。
もちろんこの日素晴らしかった食材を挙げ出したらキリがありませんが、中でもハタの印象が最も強く残りました。
ハタの下には茄子と、茄子のペースト。
スパイスを使ってあるとのご説明でしたが、ターメリックと胡椒くらいしか分かりませんでした。
茄子の優しい甘み。
合わせるドリンクは、ジャスミン、八朔、ゴーヤ。
ジャスミンの香り、八朔の苦み、ゴーヤの青み、それぞれしっかり主張のある1杯、甘さはかなり抑えてあって一番出汁を飲んでいるような感覚。
ジャスミン、八朔、ゴーヤと説明された通りの順に香りが立ちますが、飲み終わった印象はまとまりのいい味わいでした。
森でモヒート。
大葉とレモンベースのドリンクに、ミントをたくさん入れたもの。
手で揉んで、ミントの香りを出しながらいただきます。
「森林浴をしながら、森の中でサッと作ったイメージ、視覚と嗅覚でお楽しみください」とのことでした。
ひと口味見してから、軽く揉んでもうひと口。
おお、これは確かにミントの香りがググッと効きます。
メインは近江鶏のロースト。
先ほど見せていただいた丸焼きの一部ですね。
左が胸肉で右奥が腿肉。
面白いのが、もち米と九条ネギに味噌を塗って焼き上げたガルニ、イメージは焼きおにぎり。
森林の中でおにぎり、すっかり気分はハイキングですね!
えごまのジェノベーゼソース。
想像よりは軽い風味でしたが、鶏とも味噌とも相性のいい味わい。
「鶏の出汁」と説明された透明なソースは、「出汁」というより「脂」。
かなり濃厚、しっかりした味で少し驚くほどでした。
腿肉。
皮はバッキバキに焼き上がって香ばしく。
身はふっくらジューシー、塩が強くないので脂の味の強さが前面に出ています。
胸肉。
ふっくらして、しっとりして、ジューシー。
こちらもやさしい味わいながら芯のある旨み。
「近江鶏も地鶏の1種ですが、他の地鶏と違って力強い味、食感ではなく、ソフトでやさしい鶏肉です」
と最初に説明いただいた通りの印象でした。
調理の仕方もあるのでしょうが、シェフのイメージ通りの1皿になっているということなのかも。
腿、胸、甲乙つけがたいものの、個人的には胸に軍配を。
腿肉だったら他の地鶏の「力強い味、食感」という方が食材として上のような気がしますが、胸肉に関しては旨み、香り、歯触りどれをとっても極上だったように思います。
ちなみに僕は「パーフェクトな火入れ」だったと思っていますが、他のテーブルは"よく焼き"を要求される方もいらっしゃったようです。
その辺が見えてしまうのは「オープンキッチン」ならではのところ。
レモンのソルベ。
レモンのソルベの上にはちみつの泡、間にカモミールのクリーム、添えられているのはハーブのゼリー。
いかにも「アヴァンデセール」な軽くて爽やかで涼やかな1皿。
はちみつレモンは鉄板の組み合わせ、そこへハーブの香りもピッタリ一体に。
流れるような説明に、何のクリームか聞き漏らしてしまいましたが、食べてはっきり「おおカモミールだ」と分かる香りの立ったものでした。
贈り物、アマゾンカカオ。
このメニュー名で何パターンもレパートリーがあるそうですが、初回はこちら。
キャラメルのシートで作ったパイプにショコラのムースを詰めたもの。
アマゾンカカオというのは、世界の名立たる伝説的なレストランで修行された太田シェフが手掛ける専門店のオーガニックカカオなのだとか。
ちょっとキャラメルシートの主張が強すぎて、入り口から中盤すぎまではカカオが香りません。
最後に渋みがキューッと残るのを感じましたが、アマゾンカカオの実体は見えてこず。
「この先が知りたかったらもう1度お越し」と言われているかのような、焦らされるデザートでした。
ちょっと酸味を付けたクリームにショコラのクッキー。
このクッキーも苦み、渋みがビビッと効いたもの。
キャラメルのシートも食感が独特で、強い味わい。
なかなか印象に残るところの多いプレートでした。
食後はウーロン茶。
いいウーロン茶って経験がないので分かりませんが、かなり繊細な香りでした。
「イノベーティブ料理」というジャンルになったわけですが、それを名乗ること自体よりも「フレンチ」の看板を外したことに意味があるのかも。
サッカーの試合を観に来たつもりが、突然リフティングが始まって、結局最後までリフティングで終わったみたいな。
そんな異次元感にちょっと面食らいました。
パート・ド・フリュイ。
パスサッカーであったり、個人技重視であったり、カウンター狙いであったり。
スタイルは各店によって違うものの「このチームはどう点を獲りに来るのか」、それを楽しみに迎え討つのが食べ歩きだとするならば。
フロリレージュさんは待てど暮せどゴールに一瞥もくれず、とにかく楽しそうにリフティング。
それも鮮やかな技を次々決めていく。
最初は「え…シュートしないの?」と素朴な疑問を感じてしまうのですが、だんだんと技のひとつひとつに、その引き出しの豊富さに魅せられていくのですよね。
終始「楽しませる」「いい気持ちで帰ってもらう」、そんなところを目指して、あの手この手で時間と空間を盛り上げている。
そんな他にはない形のお店作りをされているように感じました。
正直申し上げてまだ慣れないところが多々あったので、また2回、3回と伺う中で心の底から満喫できるようになりたいと思います。
とても楽しかったです。
ごちそうさまでした。