夜はすごく久しぶりに新富町の鮨はしもとさんへ。
前回訪問が昨年の12月なので、2017年はようやく初訪問でした。
お邪魔できないでいた間、色んな方のブログで拝見したり、お話を伺ったり。
「10か月分のパワーアップをしている」と聞き及びましたのでそのつもりで期待を膨らませて暖簾をくぐります。
これぞ白木、照明を吸収してまるで自ら光を放っているかのようなカウンター。
この清潔さがいい意味で緊張感を生みます。
ご主人は以前より肩の力が抜けた印象、武道の達人と間合いを測っているようでこれまた緊張感。
背筋を伸ばして「お久しぶりです」とご挨拶します。
はしもとさんは最初の頃に比べてお茶を換える頻度が落ちたように感じていたのですが、今回は相当マメに好感していただけたように思います。
お弟子さんがおひとり増えたのも関係あったかもしれません。
さて、僕のつまらない前置きはここまで。
いよいよコースが始まります。
枝豆。
群馬の味緑(みりょく)という品種だそう。
火入れはかなり浅く、青っぽさが強め。
お醤油とわさび、塩。
ツマミ開始の合図です。
ちょっと上品ではありませんが、わさびをちびっとつまみ食い。
青森のヒラメ。
朝締めでやさしく味を出した定番の1品から。
薄めのスライスですが、ふっくらボリュームのある食感。
香りから来てじわり、じわりと旨みが増えていきます。
塩、わさび、醤油、それぞれ合わせると甘みや旨みの出方にスピード感が生まれる印象。
個人的には何も付けずにスローなブギで楽しむのが好みです。
箸置きがクール。
ツブ貝。
コリッとしつつスーッと歯の通る端切れ。
甘みがグッと最初にきて、追って強い磯の香り。
食感といい、味の強弱といい、ヒラメとのメリハリが効いています。
気仙沼の鰹。
藁で燻した香りと、ちょこんと添えたからしが特徴。
口に入れると、見た目以上にしっかり脂を感じます。
少しだけ酸も感じますが、脂の味が濃い印象。
そして脂の後に広がる燻した香りが凄まじく強くなっていたような。
鰹自体そのままでいただいてもバランスのいい個体だったと思いますが、強めの藁の香りという攻めの仕事が鮮烈でした。
仙鳳趾の牡蠣。
これがなかなか面白い調理で。
鍋というか、金属のボウルに牡蠣とオリーブオイル、出汁を入れて、そのままサラマンダーで加熱していらっしゃったようです。
鉄板焼きに近いような調理といってもいいでしょうか。
牡蠣自体の味も、お出汁の味も、香りも食感も…
全てにおいてこの調理の良さが出ている気がします。
このほろほろでフワフワな食感はちょっと経験のないものでした。
某イタリアンではまるで「お寿司屋さん」な仕事をされている印象がありますが、反対にはしもとさんはイタリアンのような仕事を取り入れられていましたね。
蒸しアワビ。
丁寧に火入れしたアワビに肝のソース。
ゼラチン質というかコラーゲン質というか、似た食感でいうと「煮凝り」みたいに感じました。
アワビは旨みと甘みのバランスのいい味、調和のとれたところへ肝ソースでバランスを崩して波を生みます。
これ…肝ソースは残すんだったよな…と恐る恐る食べ進めます。
アワビを食べ終わったところで、シャリ玉とイカを入れてくださるのですよね。
やっぱり僕が食べ過ぎてしまったのか、少しだけ肝ソースも追加してくださいました。
濃っ厚な旨みを軸に骨太な甘みがかみ合った重層的な味わい。
この中で一見浮いてしまいそうなシャリの"酢"ですが、言ってみればカレーに対するラッキョウのような。
マヨネーズにビネガーが入っているイメージで、食べてみると意外なほどに意外性はなく。
舌に馴染む実直な軽やかさと爽やかさをもたらしてくれています。
鰯巻き。
酢締めにした鰯に、たくあん、浅葱、ネギとそれから大葉も入っていたかな?
鰯は釧路。
すっごい脂、酢締めを軽く凌駕するパワフルな脂が常温で融け出していてふるふるにやわらかくなっていました。
今年は秋刀魚の調子が悪いと言われていますが、その穴をバッチリ埋めて余りある鰯の活躍ぶり。
とてもよかったです。
今回の茶わん蒸しは「イクラ」。
これまでもイクラをトッピングに使うことはあったものの、ここまで敷き詰めるのは初めてだとか。
「これ写真をネットに載せたら『今までケチってたな』って思われちゃいますよね」とご主人。
いやいや、今までがケチっていたのではなく、イクラ何でも今回が乗せすぎです(笑)。
目を奪われるほどキラキラと輝いていたので確認したら、イクラは蒸し上がり直前に入れるのだそうですね。
イクラが贅沢な味わいなのはもちろんですが、湯葉入りの茶わん蒸しがシンプルに美味しかったです。
焼き物はねぎま。
出てきたときに非常に印象的だったのはねぎの香り。
先日米花さんでもいただいたばかりで、奇遇ですね。
まぐろは筋っぽいところで、脂がしっかり乗った部位。
火入れは浅く脂が膨張してふわふわな食感ですが、しっかり火が入っているので酸味が抑えられて旨みがよく出た味わい。
レベルの高さをはっきりと感じる火入れでした。
ガリをいただきまして、
改めておしぼりをいただいたら握りスタート。
お茶も新しく。
スタートは定番の小肌。
多分結構大きさがあって、脂も相当なもの。
〆て3日目とのことですが、魚の味が勝つ力強さ。
小肌、強い!
すみいか。
身質としては歯応えがありそうですが、細かく入った包丁が口の中でふわっとほどけます。
甘い。
赤身。
この日は大間のものだそうで120kgとサイズもなかなかのもの。
夏のマグロから1歩進んで、グッと味が出て来ました。
鰆。
こちらも藁の香り。
ご主人曰く「これから脂が乗ってくる」とのことですが、十分今回もさらりととろけました。
中トロ。
赤身と同じ個体。
最初にふっと軽い味わいがあって、少し遅れて脂の甘みが来ます。
端のダレた感じの身質が舌に絡みますね。
網走のホッキ。
肉厚で大粒、甘くジューシー。
秋刀魚。
やっぱり厳しいようではありますが入れてくださっていました。
締まりがあって角の立った身は、脂がかなり少ないものの包丁を入れてジューシーさがいち早く触れられる仕掛け。
これくらいだと酢締めは不要ですね。
蛇腹。
はしもとさんでマグロが3貫出てくるのは初めてかな?
伺うと、今後これをデフォルトにする考えもあるとか。
蛇腹の脂は、筋と相俟ってジュワッと主張に勢いがあっていいですね。
個人的に霜降りなら中トロの方がバランスいい気がしていて、あえて大トロをいただくなら蛇腹が好きだったりします。
海老。
第1印象では火入れが甘いようにも感じましたが、全体にムラなく浅い火入れだったよう。
あえてこの火入れに合わせてきたのかもしれません。
また次回以降比較してみたいと思います。
味は抜群。
さてさて、ラストスパートです。
寿都のムラサキウニ。
とても濃厚。
クリーミーです。
穴子。
口に入れて身がほぐれるすき間にツメが浸み入り、シャリの側にある皮目に到達したときに食感が弾けます。
ここまででコースは終了ですが、この日あるネタをひと通り伺って"鰤"を注文。
「あとコレも…」ともうひとつとっておきのネタがあるそう。
「これはヤバいです。今シーズンイチになると思います」
というご主人の説明を"食え"という意味に受け取って注文した次第。
それがこちら、鹿児島のクエ。
30kgくらいの大物だったそうで、2週間寝かしてあるそうですが、
「まだまだイケます」
とのこと。
切り立てているところを拝見していたらかなり大きめにしていたので驚きましたが、一部を切り取って1度厨房へ。
なかなかないレベルのネタだからお弟子さんに味見させてあげるのか、と想像して待っていたら、
"エンガワ"を炙ってきて上に乗せてくれるという太っ腹大サービスの1貫でした。
およそクエからイメージする味、食感とはかけ離れたもの。
近いところでいうとキンキが真っ先に浮かびましたが、脂は甘みよりも旨み、食感は歯応えがありつつも弛緩した印象。
食べたことはありませんが、メヌケの大きなのなんかを握ってもらうと通ずるところがあるのかな。
ちょっとやりとりに行き違いがあったか、"追加の鰤"が出ないままお椀が出てしまいました。
初訪問した頃は「うっすーいお味噌汁」といったような説明を受けていた記憶がありますが、慣れなのかさほど薄く感じなくなりましたね。
キリッとした角のある味噌の風味に、まるーんとまろやかなしじみの出汁がメリハリ。
最後のお茶。
やっぱり鰤は出ませんでした。
クエのインパクトを考えてのご主人のご配慮だったかもしれませんし、追加注文が多かったので単純に忘れられただけかもしれません( ̄▽ ̄)
後から振り返ると、ネタを切るだけ切ったままになってしまっていたら申し訳なかったですが、異次元のクエをいただいたことを考えるとこれでよかったという気がしてしまいました。
最後は玉子。
全体にとろりとした仕上がりになっていてハッキリ「変わったな」と感じましたが、何でもお弟子さんに任せるようになったのだそう。
うっかり「美味しくなりましたね!」などと申し上げなくてよかったです( ゚Д゚)
素晴らしい時間を過ごすことができました。
ご無沙汰した期間を埋めるように前回以前の訪問を鮮明に思い出させる定番のヒラメ。
パンチのある藁の香るカツオ。
サプライズのあった牡蠣。
目に鮮やか口に華やかなイクラ。
ネギ香る脂溢れるねぎま…
もう挙げ出したらキリがないこの日のMVP。
1品1品息が漏れるような感動を覚えていただきましたが、最後のクエはさらにそれすら霞ませるレベルの凄まじさ。
予約が随分厳しい情勢になってまいりましたが、意地でも、意地でも次回は間を空けずに伺えればと思います。
ごちそうさまでした。