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美味しいもの食って写真撮って、あとで振り返ってのブログ

食べ歩きの記録です。よく食べ、よく歩きます。

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北品川の「カンテサンス」で南仏シストロン産仔羊ロースト、甘鯛ロースト、ホワイトアスパラのフリット アイナメソース、フォアグラと茄子、ホタルイカソテー、稚アユとグリーントマトのスープ、山羊のババロワ他。

5月31日(木)、5年ぶりのカンテサンスへ。
 
ミシュランが東京で始まって以来、11年連続で3つ星を獲得する言わずと知れたフレンチの名店。
 
前回訪問時は白金台にお店がありましたが、その直後にこの御殿山に移転。
 
フロリレージュに始まり、オルグイユ、アルゴリズム、アビス、クローニー…
岸田シェフの下で修行された方の活躍が目立って久しい今日この頃。
 
久しぶりにカンテサンスにも伺いたいと思っていたところ、ひょんなところから声をかけていただく幸運に恵まれました。
 
幸運に次ぐ幸運で、この日は何と個室に案内されました。
こちらは基本的には写真撮影NGですが、個室に限って解禁されているのですよね。
 
「盆と正月が一緒に来たよう」といった意味合いで「カンテサンスの個室」もこれから使っていこうと思います。
 
お水はガス入り。
 
「ガス入りにも色々ありまして…」
とのことで「炭酸の強さ」の好みを確認していただけました。
 
ずっしり重みのある黒い表紙を開くと…
 
名物、白紙のメニュー。
 
 
食材の状態がピークを迎えた時にお召し上がり頂く為には、食材の管理をてっていしなくてはなりません。
また、仕込んだ料理を次の日に持ち越さないように、その日のうちに調理する事がどれだけ大事なことか・・・。
料理の良し悪しは、こうした根本的な部分にあると考えています。
このような理由で完全なお任せコースとさせて頂きました。
 
先に決めて縛るのではなく。そのとき、その瞬間でベストの選択をするために行き着いた形ということでしょうか。
 
白いメニューは、いわば美味しさにのみ忠誠を誓う契約書。
 
もちろん一長一短あるスタイルではありましょうが、北品川の夜空を彩る33個の星が有無を言わさぬ"正しさ"を物語っているのであります。
 
店名のカンテサンス(Quintessence)は、公式HPに以下のような説明がありました。
 
 1. 物理学において“進化する世界を説明するために存在しているとされているエネルギー”
2. 古代哲学や中世の錬金術において、火、空気、土、水に続く5番目の元素である“エーテル”
(中世まではこの5つの要素で宇宙の万物が構成されていると考えられていました。)
3. フランス人はこの言葉に“物事の本質”“神髄”“エッセンス”などを連想します。
 
店名の説明というより、言葉の説明ですね。
「で、なんでその名前にしたの」というところは全くもって分からないのですが、これも結局白いメニューと同じ。
食べて判断して、というスタンスを感じます。
 
いざ。
 
ホタルイカのソテー、ワタのソース、ビスケット。
 
ひと口でパクッといただきます。
 
口に入れた時点ではソースはホタルイカの側にあるのですが、しばらく噛むとビスケットの方が相対的に口どけが早いのでソースはそちらに混じっていきます。
ビスケットのバターと塩気が加わってソースの味わいにボリューム出たところで、細かく咀嚼されたホタルイカと改めて絡むという。
 
1度解体した後、組み替えて全く別のものにするイメージ。
この移り変わりのテンポ、スピードが極自然でまるで魔法かAHA体験のよう。
 
キュウリ、グリーントマト、キウイ、ルッコラの緑のスープに素揚げの稚鮎。
 
稚鮎×緑の酸味×キュウリの香りで、鮎と蓼酢の組み合わせを連想しますね。
 
ただ、こうして稚鮎をぼやかして考えると冷たいトマトのスープでいわゆるガスパチョなのですよね。
 
1品目は時間による変化でしたが、2品目は角度を変えることによる変化。
 
1面から見ると明らかに稚鮎料理で、はたまた1面から見るとはっきりとトマトのスープ。
一体感があるようで、実はそれぞれ別の方向を向いているような。
これまた食材の主張の大変興味深い1品でした。
 
パンは以前と変わっていなければメゾンカイザーのもの。
営業時間に合わせて焼き上がっているようで、しっかりした保水。
 
そしてメゾンカイザ―のものとは思えない小麦(とライ麦?)の香り良さ。
 
スペシャリテ、山羊のミルクのバヴァロワ、マカダミアナッツ、ゆり根、オリーブオイル、ブルターニュの塩。
 
オリーブオイルは基本はプロヴァンスのものとおっしゃっていましたが、ブレンドしていらっしゃるそうです。
 
ツンと立つ酸味と甘みの強い山羊のミルク、少し足りない塩気を塩で補いつつ、マイルドにすると見せかけてヒリヒリ辛みさえ感じるオリーブオイル。
 
ちゃんと見ないと見間違えるマカダミアナッツとゆり根、という組み合わせは偉大な発見ですよコレ。
 
フランス産鴨のフォアグラ、茄子のグリル、カカオのチュイル。
 
一見するとデザートのようなお皿が続きますね。
 
茄子はグリルした後シェリービネガーでマリネしているそう。
 
フォアグラの旨み、茄子の酸味、カカオの甘み、それぞれに特徴があっていいですね。
 
そもそもフォアグラのテリーヌがまずクレームムースリーヌみたい、というかクレームムースリーヌだとしても濃厚といっていいくらい。
 
フォアグラのテリーヌだけでも十分ひとり立ちできそうなところですが、茄子とカカオで三点倒立にしてよりバランスがとられていました。
 
ホワイトアスパラのフリットの上に、コリアンダー・ケッパー・ピンクペッパーでマリネしたアイナメをソース代わりに。
 
ホワイトアスパラはもう時期が終わったものと思っていたので、こちらでいただけるとは嬉しい誤算でした。
 
ホワイトアスパラは、極太なランド産の露地物を縦に割って、生からフリットにしてあるそう。
 
茹でるのと違って旨みが逃げないので、味が濃く感じられます。
 
ネットリ艶めかしく身が緩んだアイナメ。
 
ホワイトアスパラにはない魚介独特の旨みと、ケッパーやピンクペッパーの酸味や香りが加わります。
本当にソースみたいで面白かったです。
 
グルヌイユのソテー、ヘーゼルナッツ。
 
「グルヌイユ」というのは、なんとウシガエルのこと。
淡路島産の天然ガエルを生きたまま仕入れて、足を持って、アレだそうです、こう、ビターーンだそうです。
 
予約時、食事前と丁寧に「苦手・アレルギー」を聞いてくださってからの、ウシガエルということで「ほほう…」という感じは否めませんでしたが、個人的には最近気になっている食材だったのでちょっと嬉しかったです。
 
旬のウシガエルです。
 
肉質は鶏の胸肉か、魚で言うとアンコウのような、肉の繊維質がギシギシと詰まったもの。
 
香りも強くないので、さっぱりして食べやすいですね。
ヘーゼルナッツやニンニクの香りを加えて、構成としては中華なんかにありそうな形ですかねえ。
 
フィンガーボウルを用意していただいているので、手づかみで思う存分かぶりついていただくことができました。
 
魚料理は甘鯛、手前の泡のソースはシトロン、奥にそら豆。
 
甘鯛はド定番の山口県萩のもの。
 
ギッシリ詰まった鱗がワサワサと立ち上がって、食感よし、香りの強さよし。
 
身への火入れは想像したよりは深く入っていましたが、火が入りながらしっとりした口どけがさすが。
水分もよく抜けて香りが出ていました。
 
魚にシトロンのソースとは。
 
和食で言えば、塩焼きにレモンを搾るイメージかなとも思いましたが、食べたらやっぱり全然違いました。
さっぱりさせるものではなく、むしろの焼いた魚のちょっと立った風味をマイルドにしつつ、甘い香りでいなすような。
 
やわらかめに茹でたそら豆に、モリーユ茸のソース。
 
このモリーユの香りが、ちょっと他を圧倒してすさまじかったです。
キノコすごい。
 
南仏シストロンの仔羊ロースト。
 
シストロンって「フランスのブランド羊」くらいの感覚しか持っていなかったのですけど、元は南仏の羊飼育発祥といわれる地域の名前なのですね。
この地域で育てられた仔羊が「アニョー・ド・シストロン」として評判なのですね。
 
ちなみにフランスからの羊の輸入は狂牛病の影響で2001年から禁止されていたのが、去年解禁されたのですよね。
解禁になったときに、岸田シェフが雑誌でフランス産仔羊の素晴らしさを語っているのを拝読した覚えがありますが、何だったかな?
 
鞍下と呼ばれる部位。
鞍を乗せる辺り、腰の上くらいのお肉ということですかね。
 
いわゆる"臭みのない"羊肉しか知らない世代としては、「羊肉のにおいが苦手」という感覚って今までよく分からなかったのですけど、これはなるほどかなり獣的な香りが強いですね。
 
やわらか、歯切れはブチンと強め。
 
こちらはバラ肉。
脂っぽいというよりは、ギュッと凝縮して却って旨みの強い部位に感じられました。
 
レンズ豆とジャガイモ、リゾットみたいな感じですかね。
泡のソースもジャガイモ。
 
ソースはフォンドボー。
お肉の旨みをかき消しそうなほどに深い深い旨みですが、合わせてみると不思議と重なることなくそれぞれの風味が残ります。
 
チーズもお願いすると、ブリヤサバランでした。
 
ドライフルーツやナッツのはいったバゲットと、グリーレーズンで仕込んだラムレーズンかな?
 
ふう、お腹いっぱいになったな。
 
というところで、
「ここからデザートが4皿出ます」
とのこと。
 
4皿。
 
黒文字茶のソルベ。
 
和菓子を食べるときの楊枝に使われていたりするイメージのある、あの黒文字を使ったお茶。
 
紅茶、生姜湯、黒糖、そんなイメージですかね。
 
オリエンタルとも言えそうな独特な甘みと香り。
 
玄米のリオレ。
牛乳でお米を甘く炊いたフランスの家庭的なデザート。
 
どういうものか知ってはいましたが、"聞きしに及ぶ"といった感じでいただく機会はこれまでなかったので興味津々でございます。
 
周りは東洋美人。
クリームも加えて炊いた玄米は濃厚なミルクの中にあって、輪郭の明瞭な食感と香ばしさ。
 
苦手な方も多いと聞くリオレですが、僕は好きでしたよ!(これを基準にするのが間違い)
 
「次は焼き菓子が出ます」
とのことだったので、ひと口フィナンシェかマカロンでも出るのかな?と待っていると、
 
焼きたてのタルトがドン!
 
猛烈なバターの香り。
 
中にカシスのコンフィチュール、上にはサバイヨンソース。
 
タルトの表面はキャラメリゼに近い状態に仕上がっていますね。
 
ソースの中には苺が隠れている演出。
 
もう大分お腹いっぱいですが、ここはもう一期一会ですからね。
バターの香りだけでも圧倒的ですが、そこへ甘酸っぱいカシスと濃厚なサバイヨン。
 
頭に浮かんだ感想はただただ「反則」のひと言でした。
 
デザート4皿目にこれまたスペシャリテ、焼きメレンゲのアイス。
 
これも楽しみにしていたのですよね。
 
ザラつきのザの字もないツルリとしてトロリとした温度管理。
完璧。
 
キャラメルにも近い、でももう少し乾いた甘み。
 
仕上げにひと吹き海水を拭きつけてあって、ミネラルを添加。
 
石川の海水が決めなのだとか。
 
食後のドリンクは軽めにと思ってエスプレッソに。
 
最初から最後まで「まあ人間だからこれくらいは目をつぶろう」というところが寸分もなく、一瞬一瞬が目に焼き付けたいと思える洗練された時間を過ごすことができました。
 
マニュアルをなぞるだけに収まらないサービスもとても魅力的でした。
 
客を持ち上げようと思ったら、へりくだってしまえば楽なのですけど、そういう持ち上げられ方をされるのって意外と気持ちのいいものではなかったりするのですよね。
 
その点、この日のサービスの方はご自身の"高さ"は保ちつつ、敬意を払って接してくださっているところに品を感じました。
 
お茶菓子はミルククリームにピスタチオ。
 
フロリレージュのアミューズが以前似た形でしたね。
 
いやいや。
 
今回は意外なところからお誘いいただいてびっクリしたところでございました。
一応5年ぶりの訪問ということで、僭越ながらナツかしいミたいなところも無きにしもあらずだったりして。
 
次回はいつになるか、はたまたその日が来るのかも定かではございませんが、末永く続いていただきたいと願う次第です。
ごちそう様でした。

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