今年も縁あって駒場東大前の「tsu・shi・mi」さんへ。
前回よりスタートが少し早かったので、到着時は結構明るい時間でお店周りの雰囲気がまるで違って見えました。
2度目の訪問ですが、既に移転が決まっているそうなので現店舗はこれで最後の訪問になります。
新しいお店の構想も魅力的で惹かれるのですけど、微に入り細に入りシェフの美的、そして知的センスの光るこちらの店舗の内装もとても素敵なので、最後にもう1度お邪魔できて本当に幸運でした。
謹んでいただきます。
まずは、メイン料理で使われる60種類を超える野菜の端材を使って抽出する野菜茶。
ザーッと注いでいくのですけど、香り、甘み、旨みの凝縮したエキスがしっかりと抽出されるのですよね。
既に物凄い香りが充満します。
塩味とか砂糖の甘みとかではないので、ファーストアタックは味というより香りなのですけど、通底する旨みの重さというか、太さのようなものが凄まじく力強いのですよね。
最初にこういったお出汁系のひと口でスタートするお店は他にもありますが、こちらは相当に「力強い」部類に入ると思います。
ドリンクは全てペアリング。
1杯目のこちらは、見た目では何だか分かりませんでしたが、トマトジュースをベースにハイビスカスティーとブレンドしたものだそう。
最初に説明を聞かないままいただいたときは、紫蘇ジュースとかそういった味わいに感じたのですけど、トマトジュースと聞くとトマトの青々とした香りが色濃く脳裏にぎらつくようになりました。
トマトの旨みとハイビスカスティーの酸味、それぞれの植物系らしい香り。
複雑でありながらも、とても飲み口の爽やかな1杯でした。
田子大蒜。
にんにくとフォアグラのタルトというインパクト強めのフィンガーフード。
下からタルト生地、にんにくピューレ、にんにくコンフィ、フォアグラソテー、オリーブのペースト、ガーリックミルクの泡、にんにく芽。
「ひと口で」と説明があるので、崩さないように口に放り込みます。
火が入ってパンチの強まったにんにくの風味と、フォアグラの脂が一気にパーンと口の中で破裂します。
ボリュームのある味わい。
ほど芋。
自家製パンツェッタ、セルバチコ(ルッコラの野生種)。
奥にチーズフォンデュソース。
泥を表現したオリーブと、砂を表現した野菜塩。
野菜塩が強めの味付けなので、ほど芋は甘みが立ちます。
大きな落花生みたいなほくほく感。
パンツェッタの脂とセルバチコの相性もよし。
合わせるとナッツのような風味になります。
加賀太胡瓜。
メニュー名には「加賀太胡瓜」としか書いていないのですけど、出てきたのは❝鯖寿司❞。
鯖は地下海水で養殖してアニサキスが付きにくいという「お嬢鯖」。
箱入り娘鯖とも言われるのだとか。なるほどなネーミング。
バルサミコで香りを付けて、炙ってあります。
❝シャリ❞は、胡瓜と中国の干し梅とオリーブオイルと塩を叩いたもの。
さすがに本物のシャリよりは崩れやすいのですけど、ちゃんとねっとり粘りがあります。
香りいい脂がシャリの酸味と合わさって、まんまと握りずしを彷彿させる1貫でした。
フレッシュハーブティーが用意されつつ。
続いてのドリンクはノンアルコールのジン。
かなりギンギンに鋭い風味。
あと飲み口というか、質感もギラギラとしている気がします。
ライムと、奥に浮いているのはジンの風味のもとだというジェニパーベリー。
この爽やかなドリンクに合わせるお料理は…、
Noen2021/9/2&バターナッツ。
真ん中にバターナッツのポタージュ、周りに65種類の野菜をそれぞれの調理法で。
ポテッと重みのあるポタージュ。
しっかりした甘みと、乳脂のコク。
前回は60種類でしたが、今回は5種類も増えて65種類に。
このひと口を提供するために、65種もの野菜を調理するという気の遠くなるような作業。
これをシェフひとりで毎日提供されているわけですから、本当奇跡のような一皿だと思うのですよね。
今回印象に残ったお野菜は、落花生、ゴーヤー、パプリカ、銀杏、ビーツ、生姜。
昨年はもう少し冬に近い時期だったので根菜多めだったと思いますが、今回の方がやや緑色のお野菜が多かったと思います。
調理法も本当に様々。
真ん中は銀杏。
ときどき口に入れて風味を感じて飲み込んでから、「今の美味しかった!…けど何だったんだろう……」みたいな感覚になるのがこのお料理の醍醐味。
何ともつかない幸福感だけがくっきりと残ります。
次のドリンクは菊芋のエキス。
ジュースでもアルコールでもなく、エキス。
水を飲んだら土気の強い菊芋の香りが残る不思議な1杯です。
万願寺唐辛子。
中には三河の鰻のペーストと蒲焼き、皮と肝は唐揚げ、パプリカのソースとサマートリュフ。
全編にわたってこちらのコースはメニューに野菜の名前だけが並んでいます。
というのもシェフのコンセプトが、野菜を美味しく食べさせることだから。
ただしヴィーガン料理というわけではなく、野菜を1番美味しく食べるには動物性の味わいを加えるべきとの考えでそういった食材も合わせていることなのですよね。
肝の唐揚げ。
凄まじい旨みと香りの塊。
甘めのパプリカソースとの組み合わせは新世界感があります。
こうして見るとピーマンの肉詰めの亜種という感じもありますね。
ただし中は肉ではなく鰻。
鰻の旨みと脂の甘み、万願寺唐辛子とパプリカソースの青みの強い甘み。
塩トマト。
トマトの中にはマッシュポテト、鮎の唐揚げにキャビア、自家製のマスタード。
どういう組み合わせ……という気持ちになるのですけど、「ポトフ」なのだいう説明を受けたらちょっとなるほどという気がしてきます。
鮎は軽やかな香ばしさと苦み。
キャビアと自家製マスタードで風味が鋭くなります。
このトマトを崩して食べて、とのことでしたので、
このように。
なるほどポテトがカギを握っていたのか、と納得感のあるポトフな仕上がり。
味の重なりによって、時折おでんが顔を覗かせます。
先ほど準備されていたハーブティーがここで登場。
お湯で淹れて、ササッと冷却されていたと思います。
枝豆。
カツになっているのは大分産のアワビ、その下には肝のソース。
上に乗っているのは鶴岡の茶豆のタルタルと群馬のブランド枝豆「味緑」。
食感こそさすがにアワビがパワフルですが、クリーミーさの加わった枝豆の青みとコクのバランスはそれを印象で上回ってくるほどの完成度の高さ。
アワビ、枝豆と違った環境ながら、どちらも「自然」の強さを感じる仕上がりになっています。
奥の枝豆は千葉県産。
アワビではなく枝豆を主役とすること、枝豆を3種類使い分けること。
このお皿にシェフのこだわりの強さの一端を見ることできます。
さすがにパンチがかなり効いているのが肝ソース。
そんなに目立たない量ながら、味の方向性を決定づける力強さです。
小麦と米。
定番の1品。
餅米「ひめのもち」、古代小麦、黒米のパンに甘酒とバターを塗って焼いたというフレンチトーストというかシュガートーストというかクイニーアマンというか、といったような濃厚な甘バターな味わいが印象的なパン料理です。
新しいお手拭きが用意されて、手で食べるように説明があります。
ためらいなくガッと手づかみでいっちゃいます。
ひと口千切って口に入れると、欲望の限りをこの1点に持っていかれるような魅惑の味わい。
これは堕してしまいます。
添えられているのはクリームチーズとヨーグルト、黒米のパフ。
パンに比べると随分軽やかなコクが特徴のクリームを、口直し的な位置づけで使いながらいただきます。
本来は日本酒を合わせたいそうですが、こちらはアルコールを抜く加工をした日本酒、通称「米ジュース」でいただきました。
甘み要素がお料理と被る分、シャープなキレが際立って感じられました。
続いてもアルコールを抜いて甲州ワイン、中にはシャインマスカット。
シャインマスカットは最後に美味しくいただけました。
柔らかな甘みのある白と合わせるお魚料理は…、
金時草。
魚は長崎ののどぐろ、雲丹は上に乗せて炙り。
美しいビジュアルですが、これで完結ではなく…、
生の金時草。
このお野菜が先ほどのお料理にどのように参戦してくるかというと…、
目の前で金時草のスープを投入。
とても綺麗な色です。
この金時草のスープ、50℃で2時間揉んで、のどぐろの骨を焼いて出した出汁と合わせているそう。
見た目のインパクトとは裏腹に、この澄んだ鮮やかな色合いのスープが王道をいく旨みで皿の上すべてをけん引する力強さのある1皿でした。
メインと合わせるドリンクは、赤ワインをイメージしたこちら。
少量ですが、かなり濃厚さを感じさせるビジュアル。
内容はカシスとスパイスワインを合わせたもの。
飲み口はやっぱり非常にどろりと重みがありました。
雑な例え方をすると、とけたソルベくらいの重さがあります。
凝縮したカシスのフルーティーさと、複雑な風味を含んだノンアルコールのスパイスワイン。
華やかな香りが印象的で、これ自体デザートのような甘みのある1杯でした。
佐土原茄子。
奥で帽子を被って可愛らしく立っているのが佐土原茄子かと思いきや、そちらは別の茄子。
手前でお肉の上に乗っている肉厚な茄子がそれでした。
茄子はともに焼き茄子。
こちらは中に赤味噌が詰まっていました。
ひと口でギュッと強い味と茄子の甘み、しっかりと青い香り。
お肉は赤牛、その上にとろっとろに焼かれた佐土原茄子を乗せて、仕上げにシェーブル。
シェーブルは広島県・三良坂フロマージュのもの。
淡白で力強い赤身の肉に、とろんとろんに甘い茄子、フォンドボーと焼き茄子の苦みが強く出たソース。
お肉料理でありながら、やっぱり中心には茄子がいる1皿でした。
シェーブルとフォンドボーが盛り上げ役に徹した茄子料理。
デセールを前に、生ライチの乳酸ドリンク。
「ヤクルトみたいな味がします」という説明でしたが、びっくりするくらいおっしゃる通りの味わいでした。
ライチの果汁にホエーを合わせた感じだったと思います。
夏秋苺。
「冬の苺は使わない」と決めているというシェフが繰り出してくる甘みよりも香りで味わう苺。
飴がけで角の立った苺。
下から非加熱の苺ジャム、ホエーのジュレ、自家製のヨーグルト、ローズマリー。
非加熱の苺ジャムというのは、角切りの苺を砂糖か何かでマリネしたものだと思うのですけど、苺が独特の食感になっていてフレッシュな香り豊かでとても魅力的なものでした。
ホエーとヨーグルトを合わせて、よりさっぱりとしたヨーグルトという感じ。
ヨーグルトに苺を乗せて食べるのと比較して主客が逆転したような、そんな味のバランスでした。
香りいい。
榧の実。
あまり食べられなくなっている榧の実(かやのみ)を使ったアイス。
ナッツを使ったアイスはよくありますけど、ミルクチョコレートのアイスと言われても驚かないほど色濃い仕上がり。
榧の実はこちら。
見た目はアーモンドみたいですが、丸々とよく膨らんでいます。
濾して滑らかにすると風味が弱まってしまうそうで、ザラザラの質感のままアイスにしてあります。
アーモンの渋みを強めに出しつつ、杏仁のような香りを少しだけ漂わせたような味わい。
半年寝かせたパンをラスクにしたもの。
風味が凝縮しているのはもちろん、食感も水分が抜けてよくなっていたと思います。
駒場の宝箱。
まあまあ大きな宝箱が登場。
取っ手をクイッとしてグイッと回し、蓋を開くと…、
ミニャルディーズが登場。
楽しくて豪勢。
内容は、青森県産ブルーベリーのタルト、オレンジベルモットのカヌレ、ガトーショコラロワイアル、ポップコーンキャラクレーム、黒酢キャラメル。
それぞれ主張のある風味を放っていて印象的でしたが、特にポップコーンキャラクレームの深いコクのある甘みが素晴らしかったです。
ゆっくり味わいたいところですが、次々パクパク食べてしまう。
食後のドリンクは悩ましいラインナップが揃っていましたが、僕はカワラケツメイという葉のお茶にしました。
弘法大師が広めたという言い伝えがあるそうで、弘法茶とも呼ばれます。
独特の風味のある甘みが特徴。
情報量が凄まじく多かったのですけど、どのお皿も、どのドリンクも鮮烈な印象を残すコースでした。
他県への移転ということですけど、シェフしか使わないような食材や、スケール感の違う調理など、また東京では実現をできなかった世界観を見せてくださいそうだなと、訪問するのをワクワク楽しみにしながら、ごちそう様でした!