5月4日(土)、市場がお休みだったので朝からモヤモヤしながら過ごしましたが、夜はありがたいお誘いをいただいていたので代々木上原へ馳せ参じました。
セララバアド。
北欧の名店で修行されたシェフのお料理をいただける、イノベーティブ・フュージョンとかモダンガストロノミーとか噛みそうなカタカナ語で紹介されるお店です。
緑生い茂る中、入店。
料理スタートの20分前までに入店するよう、事前に案内がありました。
席に着くと、メニューにあしらわれた、レーザーカッターによるものだという切り絵が迎えてくれます。
今回は、2席しかないというプレミアムシートでした。
メニューはおまかせコース1本。
ノンアルコールドリンクのペアリングもお願いしてあります。
厨房が見渡せるのはもちろん、盛り付けも印象的なお店ですからこのカウンターを眺めるだけで壮観、圧巻。
この時点で帰り道の満面の笑みを確信します。
お箸が用意されるのも面白いですね。
細かな料理もありますからありがたいところです。
よく見るとお店の名入り。
PIERRE ~zero~ les domaines pierre chavin。
まずはノンアルコールのスパークリングから。
桜の枝に模して出てきたのは、グリッシーニとバルサミコの風味をまとった馬肉。
"桜肉"ということでしょうかね。
肉の旨み、甘酸っぱいニュアンス。
小難しい複雑なお料理に身構えていたところへ、分かりやすい美味しさからスタートです。
添えられたオリーブも香りが強くて印象に残るものでした。
続いて金色の王冠のような器が登場。
チョリソーを詰めたうずらのフライなのだとか。
普通にうずらのフライとして美味しくいただけました。
揚げが浅めで、ちゃりちゃりと衣が歯に付く食感が面白いです。
続いて"木"にちなんだ3品。
檜の香りのドーム。松の実のクッキーに柚子の花。
ドームを持ち上げると木の香り。
素朴さが強いクッキー、柚子の香りはしっかり爽やか。
楓の樹液。
シェフ自ら採取してきたという本物の楓の樹液を葛餅のようにぷるんぷるんに"形"にしてあります。
ポンッと弾けて少し口から樹液が噴き出してびっくりしました。
噴き出したおかげで(?)ほのかに木の甘い香りが感じられました。
ほのかに。
メープルシロップで炊いたりんごと、ブーダンノワール。
ようやくはっきり分かる味。
濃厚なブーダンノワールに、りんごとメープルシロップは甘みだけでなく香りが秀逸です。
清見オレンジのジュースにリンデンのハーブティー。
グラスの周りに敷き詰めてあるのもリンデンだそうです。
見た目はほぼほぼオレンジジュースでしたが、飲むと一転ほぼほぼハーブティーで驚きました。
自家製のパン。
ふっかふかで表面は、ちょっとねちっと。
焼きたてなのか、あっつあつでした。
バターではなくオリーブオイルが出てきましたね。
何かの標本のようにして出てきたのは…、
…よく分かりません……。
「緑色のはアンチョビパセリバターです。あとひとつだけ食べられる石があります」
とご説明いただいて、なるほど~と思いましたが、そこまでヒントをいただいてもどれが「食べられる石」なのかよく分からず。
お隣の常連さんを盗み見ると、この色の薄いのをかじっていらっしゃったので、僕も恐る恐るかぶりつくと…これがホクホクに蒸かされたじゃがいもでした。
なるほどなるほど。
ここにアンチョビパセリバターを付けて、香り高い贅沢じゃがバターに仕立てながらいただきます。
石に対して苔のイメージなのだそうです。
さてさて、なんだかカウンターの上が賑やかなことになってきました。
次のお料理は目玉のひとつ「蝶」なのだとか。
春の高原と名付けられたこのメニュー。
透明なガラスの器の中に"高原"が仕込まれているわけですね。
何とも鮮やか。
お料理としては、フレッシュチーズのクワルクをムースにして、ローズウォーターとクランベリージュースの泡で覆ってあります。
クセがなくさっぱりしたムースに、ローズウォーターの泡がとてもいい香り。
目から入る情報と、舌から伝わる感覚の一体感ったらないです。
りんごをカットした蝶、小さくキューブ上にカットされたビーツのピクルス。
実は料理自体はとてもシンプルで、フレッシュチーズのムースと華やかな香りの泡の組み合わせ。
そこを丁寧に作ってあるので、味のインパクトはそこそこながら、美味しくいただけました。
甘酒とジンジャー、グラスの脇に生の粒胡椒が添えられています。
鋭く辛くジンジャー。
甘みはしっかりありますが、甘酒の香りはそれほど感じなかったように思います。
かわいい…!
と思わず声が漏れてしまうこちら。
アボカドのペーストにオリーブの土。
そこから生えるのは山菜のフリット。
フリットといっても、軽い衣なのでほとんど天ぷらのようですね。
山菜の香りが油のコクで活きますねえ。
オリーブとアボカドの土が美味しくてパクパクいただいてしまいました。
しじみのゼリー、表面に雨の紋様が描かれているのが見えるでしょうか。
旨みの凝縮したところへ、甘い甘い甘海老。
ゼリーに対してちょっと粘性のある食感もアクセントになります。
りんごジュースと昆布出汁、きゅうり、ディル。
ペアリングのドリンクで1番印象に残ったのはこちら。
想像以上にきゅうりとディルの主張がすごいのに、リンゴジュースの甘さに見事にマッチ。
エスニックな風味ともいえそうなさっぱりしたジュースで、グビグビ飲んでしまいました。
続いて、筍。
蓋代わりになった皮を外すと…、
ほたるいか、筍、トマト。
この時期はほたるいかを色々なお店でいただきましたが、ここまでしっかり火入れされていたのはあまりなかったかもしれません。
トマトの旨みが全体に広がって、筍とほたるいかとそれぞれ我が道をいく足並みを揃えます。
白魚のフリットに大麦のリゾット。
店内を香ばしく揚がった白魚の香りが包み込みます。
フリットはセモリナ粉を付けて揚げているようで、ぷちぷちとした食感。
火の入ったセモリナこと、リゾットが違ったコクを持っていてまた合いますねえ。
ドリンクは正露丸のような燻香が個性的なラプサンスーチョンに、日向夏の香り。
メインの脂を洗い流すさっぱりした1杯だそう。
魚料理は鰆のロースト。
上に乗っているのは辛子かと思いましたが、柚子味噌のような感じだったかな?
ここへシェフ自らが…
煙を流し込んで目の前で瞬間燻製。
春霞をイメージしているそうで、少しずつ靄が晴れていきます。
ちゃんと春霞していて思わず笑ってしまいましたが、瞬間燻製というか煙が目の前にあるのでばっちり香りますね。
浅めの火入れでしっとり仕上がった鰆は、燻製の香りもよく合っていました。
鰆を選んだのはやはり魚編に「春」だからなのでしょうか。
メインはホロホロ鶏。
手前からムネ、モモ、ハツ。
ソースはシャンピニオン。
ほわほわ泡立っているからか鼻に香りが抜けるまでが早い気がします。
ハツはもちろんですが、ムネとモモの印象が全く違っているのが面白かったです。
そして、ムネの火入れの素晴らしさったら。
絹のようにしっとりきめ細かく、舌にしなだれかかる妖艶な食感がバツグンでした。
デザートはチョコレートのムースに、バニラで炊いたゴボウ。
アイスは生姜。
土から春の芽吹きをイメージされていそうなプレートですね。
バニラとごぼうの意外な組み合わせが面白かったです。
ごぼうと生姜の土気がデザートに入っている目新しさはありましたが、正直チョコレートとの相性はピンと来なかったように思います。
僕の経験不足かもしれません。
デザートの後に運ばれてきた缶の蓋を開けると、中はおもちゃ箱のよう。
苺のシートで作られた薔薇、綿菓子で出来た押し花の入った和紙、雨模様のゼリー、木の芽のマカロン。
押し花はエルダーフラワーだそうで、もちろんこのままいただけます。
エルダーフラワーのゼリーでできたガラスに伝う雨の跡。
苺以外は基本砂糖の甘みでしたが、マカロンの木の芽の香りが独特。
こういう意外な食材を使うときに、躊躇なく振り切った味の出し方をするのがいいですね。
食後のドリンクはハンドドリップの日本茶。
右が1煎目、左が2煎目。
低温でじっくり淹れる1煎目は、芯の通った旨みの強い味わい。
高温で一気に抽出する2煎目は、苦みや渋みがじわじわと舌に広がります。
というわけで、全くもって要素を拾い切れない記事になってしまいました。
当たり前ではありますが、体験型の食事ということでこのお店は特に実際に足を運ばれるのがこのお店を知る最短距離なのだと思います。
演出のインパクトから考えると、味わいは優しく穏やかに仕上げて素材のポテンシャルを活かすようなものが多くて、コントラストで若干物足りなさを感じるところもあった気がします。
その辺は何度か伺っていい意味で演出に慣れてきたら、気持ちと味覚のバランスがとれるようになるのかもしれません。
とにかく最初から最後までワクワクさせていただけましたし、細かい仕事の数々に感心しきりでした。
また他の季節も伺ってみたいです。
ごちそう様でした!