この日はどこか初訪問のフランス料理のお店へ、と以前から気になっていた外苑前の「l'eau(ロー)」さんに。
2019年にオープンして注目を浴びたお店だったのですよね。
オーナーシェフは、父親の営む南長崎の洋食店出身なのだそう。
町の洋食店から本格フランス料理という、ちょっと異色の経歴の持ち主のようです。
2019年に早速ミシュランの星を獲得されるのでは…とさえ思っていましたが、とりあえず去年はお預けに。
今年1つ星に輝いて予約が取れなくなる前に伺っておきたかったのですよね。
黒を基調にした店内はやや照明も落とし気味ですが、テーブルはスポットで照らされています。
レモングラスの香るおしぼりを堪能したところで、コースがスタート。
「水 葉 樹」
メニュー名になっているそれぞれをテーマにしたアミューズ3種の盛り合わせ。
水。
あさりの出汁にいくら、あおさのり。
口に入れるとぷちっと液体が弾ける、アルギン酸で固めるアレだと思います。
さっぱりした感じでくると思いきや、出汁がかなり濃いめ。
草(花、ハーブ、じゃがいも、アンチョビバター)。
ハーブはチャイブ強め。
クルッと巻いて揚げたじゃがいもに、アンチョビバターを合わせて分かりやすく美味しい味に仕上がっています。
「樹」は❝どんぐり❞。
「ひとつだけ食べられます」という説明の通り、ひとつは甘いポートワインで香り付けしたフォアグラベースのムースになっています。
表面はカカオバターでコーティング。
「他は食べられないのでお間違いないように」と注意がありましたが、確かに2つ目、3つ目とつい食べてしまいたくなる濃厚な絶品フォアグラでした。
スミイカ、胡桃、花。
お皿に敷かれているのはケールのパウダー。
花は食べられるエルダーフラワー、その下にはブルー、ウォッシュ、セミハードの3種のチーズを使ったふわっと軽いムース。
さらにその下に柚子のピュレ。
エルダーフラワーはビネガーでマリネ。
爽やかな香りと柚子の香りが重なって、チーズの旨みとイカの旨みが重なって。
柚子の苦みはケールの苦みと重なって、イカと胡桃のコリコリした食感が出会う。
一見要素の盛り込みすぎにも思われましたが、少しずつ一体感のある部分があって違和感なく食べ進められる1皿でした。
常にケールの青っぽい苦みが付くところも秀逸だったと思います。
パンは軽い味わいのカンパーニュ。
ホイップバターも軽くて軽くていくらでも食べられてしまいそう。
白子、菊芋。
「動画推奨です」とアナウンスがあってから目の前で蓋を開けていただくと中から煙が立ち上がる演出。
白子はソテーに。
菊芋はフリットとペーストの2種使い。
脇役と思われた牡蠣がゴロゴロ入った牡蠣ソースは、イルトラムのパスタを思い出す系。
少し牛乳を使っているそうでマイルドな仕上がり。
鰆、茸。
平茸の泡と、椎茸のデュクセル。
鰆は表面と内側の火入れにハッキリめりはりの付いた炭火焼き。
ソースはくっきり強弱が付いていて、それぞれ食感にも主張があります。
炭火焼きで皮目はバリバリに香ばしい仕上がり。
香ばしさと茸の風味の組み合わせの心地よさ。
さりげなく添えられている黒大根のスライスの中にはズワイガニとディルを和えたもの。
上に乗っているのは浜防風という野菜。
これまたバラバラな1皿なようでいて、欲しいときに欲しい味がくる感じで気持ちいいです。
蝦夷鹿、チーマディラーパ、蕗の薹。
鹿はうちもも。
縦にして高さを持たせた盛り付けが印象的です。
緑の球体はパセリをまとわせた新じゃがと蕗の薹のコロッケ。
食べると驚くほどに蕗の薹の香りが残ります。
チーマディラーパというヨーロッパの菜の花のペース。
想像したよりクセないまったりした味。
手前からうるい、次がトンナムルという韓国の野菜。
奥は蕗の薹のフリットなのですけど、ほぼほぼ天ぷら。
そういえば今シーズンはまだ蕗の薹の天ぷらをいただけていなかったのですけど、まさかフランス料理のコースの中でいただけるとは思いませんでした。
ソースは蕗味噌と赤ワイン。
全体に蕗の薹の風味に溢れていましたが、あざとさもくどさもなく春を満喫できました。
苺、フロマージュ。
白いお皿の中心に、王冠のように飾られた苺のデセール。
チーズスフレをベースに、ドーム型の苺ムースを乗せて、極薄の苺のチュイル、フレッシュの苺もスライスして。
中には苺のコンフィチュール、下には苺のピューレ。
濃淡を分けつつ、各パーツで苺の甘み、酸味、香りとそれぞれの要素を表現したようなデセールでした。
スライスしたら苺の良さが分かりにくくなりそうだなあと思って食べ始めましたが、フレッシュな苺は「みずみずしさ」の要素を見事に表現されていたと思います。
烏龍茶は静岡のもの。
国産の烏龍茶や紅茶みたいなものを出すお店って増えてきていて、どれも総じて「渋みが控えめですっきりした味」くらいの印象になってしまっているのですけど、ちゃんと勉強して分かるようになりたくなってきています。
プティフール。
ここにお菓子を盛り付ける…わけではなく、既に3種のお菓子が乗っています。
落花生の形をした生キャラメルは、本当に落花生入り。
ビジュアルからかけ離れたねっちり食感、そこから再びビジュアル方面に引き戻される落花生の強い風味。
ふふふ、と笑みがこぼれます。
こちらは右下の方が、栗のチップに抹茶のクリームを乗せたもの。
香ばしさと抹茶の香り。
奥の1枚だけがチョコレートでできています。
というわけで、どの料理もビジュアルで楽しませてくださる精緻なお皿ばかりで終始楽しませていただきました。
各お皿の要素が多すぎるように思えるところもあるのですけど、狙っているところ感じられる組み合わせだったりして、自然と感覚の中で馴染んでいくのが興味深かったです。
そういう意味で、味がいいだけでなく、頭でも楽しめるコースだったように思います。
またどんなお料理を思いつかれるのか、次回の訪問を楽しみにしたいと思います。
ごちそう様でした!