麻布十番の「スブリム」でミシュラン1つ星も獲得した加藤順一氏がシェフに就任した銀座の新店「ラルジャン」へ。
❝銀座❞ということだけ存じ上げていましたが、いざ伺ってみると銀座は三越の真正面。
日産やソニーのショールームで目立っているあのビルの7階という一等地中の一等地でした。
大通りを見下ろす見通しのいい景色は、夜に来たらまたガラッと違う雰囲気を味わえそうです。
七谷鶏。
フィンガーフードのアミューズからスタート。
キノコのサブレで、京都の七谷地鶏レバーのムースをサンド。
カシスのパウダーで印象的に色付けてあります。
レバーのムースが旨みたっぷり、かつ濃厚なコクで味のいいのはもちろんのこと、キノコのサブレを合わせるところが特徴的。
ひと口のサブレながら、一料理として完成度の高い味の幅、奥行きの深さがあります。
信州サーモン。
ヴィネガーのアイスディスクの下に信州サーモンと胡瓜のマリネ、ミョウガのピクルス。
目の前でディルのオイルをかけて完成です。
なるほど、一気に華やかに。
ディルのオイルとヴィネガーの効いたディスクで、爽やかながらも落ち着いたコクが全体に広がります。
信州サーモンは言わずもがな、後味のキレのいい濃厚な脂。
発酵マッシュルーム。
「スブリム」時代からのシェフのスペシャリテであるスープ。
シェフのお料理は個性が光る上に、とにかく❝いい味❞を感覚のど真ん中にぶち込んでくるような完成度の高さがどのお皿にもあるのですけど、この1品だけは群を抜いて印象に残るのですよね。
フレッシュのマッシュルームのスライス、下には軸のソテー、そしてやや穏やかな旨みで味わいを和らげる温泉卵という意外なアイテムも。
塩をして、半真空状態で3週間ほど置くという「発酵マッシュルーム」は、ただでさえ香りのいいマッシュルームを凄まじい爆発力とでもいえるまでに引き上げた味わいのよさなのですよね。
シェフの修業先である北欧の「一つの食材で豊かな味わいを生む」という特徴が強く出た1品なのだそうです。
やさしい味がガツンとくる感じ。
このスープのためだけにでも訪問したくなる魅力の1杯です。
お菓子の型で焼いたようなサワー種のパン。
小振りに見えて、生地がむぎゅむぎゅに詰まっているのでかなり重みがあります。
酸味があって力強い味わいですが、シンプルな風味。
左はホイップ焦がしバター、右がフレッシュバター。
どちらも香り豊かなバターながら、とてもとても口どけ軽やかなのでついつい食べ過ぎてしまう危険なバターです。
天竜金目鯛。
天竜川沖合で獲れる大振りなサイズの地金目のことなのだとか。
色合いといい、配置といい可愛らしいセンスの光るドレッセが印象的です。
さっぱりした柚子のソースが、金目とバターの合わさった甘みの豊かな脂の後口を軽くさせます。
柚子の効果で和を強く感じるのか、ちょっと南蛮漬けに近いイメージ。
パールオニオンのピクルスの他、丸くくり抜いたじゃがいもがまた可愛いのですよね。
ちょっとピリッと辛みのあるナスタチウムも。
メインのお肉はホロホロ鶏。
やわらかな肉質で独特の旨みの強さがあるお肉ですね。
淡白な胸肉をしっとり上品にローストして、フルーティーな甘みが強く出た玉ねぎのシートで包んであります。
トリュフのソースとフォアグラの泡。
説明がなかったのでこのシートがどんなものなのかまったく分からずにいただきましたが、ちょっと驚くくらいにフルーティーでした。
シンプルに旨みで勝負したホロホロ鶏の味を補完するものとして、この上ない相性のよさ。
下に敷いたマッシュポテトで濃厚さも加わります。
お肉は淡白にしつつ、ソースは豪勢にトリュフとフォアグラ。
この辺りのバランス感のセンスが絶妙。
変化球でありながら、胸に刺さるものはストレートといったような不思議なメインの1皿でした。
ホロホロ鶏は本当にいいお肉ですねえ。
シーバックソーン。
聞き慣れない名前ですが、北海道で採れるフルーツなのだそう。
下からシーバックソーンのムース、ミントのジュレ、ホワイトチョコのアイスとチョコクッキー。
チョコミントを意識したというデセールで、確かにミントがかなり味の軸として存在感を放つ1品。
酸味の強いシーバックソーンと、角を削がれたような純粋な甘みが特徴的なホワイトチョコのアイス。
味の要素が多いことを忘れてしまいそうになるほど、一体感に優れたデセールでした。
こちらが噂のシーバックソーン。
聞いたこともなければ、まったくもって見たことのないフルーツでした。
かなり酸味は強め。
銀座はちみつとフレッシュバターのケーキ。
銀座のビルの屋上で採蜜が行われるという「銀座はちみつ」を使ったケーキ。
PRも含めて提供されているような感じでした。
こんな感じでカットしたバターケーキに、追い蜂蜜を注いで完成。
風味のいいクリームはもちろん、蜂蜜感がゴリゴリと迫ってくる甘みの強さです。
ミニャルディーズは豪勢に4品。
ダージリンとチョコレートをキャラメルで包んだお菓子。
スッととける儚さと、一瞬で強い香りが広がる風味のコントラスト。
桃のミニタルトと珈琲のマカロン。
小振りながら緻密に完成度高く仕上げられています。
たこ焼き風デンマークのパンケーキ。
彼の地独特の球体のパンケーキをひと口サイズに作るために、たこ焼き器を使ったそう。
中にはルバーブのコンフィチュール。
洒落っ気を効かせつつ、ちゃんとした造りになっているのがさすが。
というわけで、この価格、この立地ではちょっと考えられないほど作り込まれたお皿の数々でした。
北欧での修業経験という背景があってか、使う食材や技術の魅せ方に相変わらず個性が強く出ていらっしゃる気がします。
前店のいいところをちゃんと銀座まで持ってきつつ、明らかに進化、深化を感じさせられました。
また季節ごとのお料理をいただきたいものだな、と次の訪問を考えつつ、ごちそう様でした!