食べたものの記録を淡々と綴っているこのブログは、いつの間にやら食べるスピードに書くスピードが追いつかず、随分タイムラグのある更新が定番になってしまっておりますが、ついに今月初めに行ったサンセバスチャン旅行の話を書く段になってまいりました。
その前に、事前の情報収集として読んだ2冊の本と1つのテレビ番組のことを書き残しておこうと思います。
前提
サンセバスチャンは日本から行くには2度の乗り継ぎが必要で、パックツアーのようなものはなく、日本から行く一般的な旅行先ではなさそうでした。実際に現地でも、街を歩いていて日本人に会ったのは1日1組くらいのペースでした。
そのためガイドブックやネット上の情報も十分にはなく、何か他の手段で情報を集める必要がありました。
サンセバスチャンのお土産屋さんでポストカードやマグネットを見ると、結構この左奥のモニュメントが描かれているのですけど、日本語の情報があまり出回っていなくて、現地に行ってから存在を知りました。
【読んだ本】
- 人口18万の街がなぜ美食世界一になれたのか―― スペイン サン・セバスチャンの奇跡(祥伝社新書284) - 高城剛
- 料理人にできること: 美食の聖地サンセバスチャンからの伝言(柴田書店) - 深谷宏治
【観たテレビ番組】
- 石原さとみのすっぴん旅inスペイン ~世界一おいしい街で見せた女優の素顔~(フジテレビ系)
それぞれについて概要を書いていきます。
人口18万の街がなぜ美食世界一になれたのか―― スペイン サン・セバスチャンの奇跡(祥伝社新書284) - 高城剛
タイトルの通り、サンセバスチャンが「美食の街」と呼ばれるようになった由縁を知りたくて購入しました。
嬉しい誤算だったのは、前185ページある本文のほぼ前半82ページがスペインの観光戦略やバスク地方の歴史の説明に割かれていること。この部分の前提情報が入ったことで、「美食の街」の理解が深まり、旅行中も感心させられる場面が増えました。
そして肝心のヌエバ・コッシーナの説明も充実しています。1970年代にフランス料理をカジュアルで軽めな味わいに変貌させたヌーベル・キュイジーヌにバスクの若いシェフたちは「まるで、ティーンエイジャーがはじめてロックを聞いてバンドをはじめるように」大きなインパクトを受けます。
いままでのクラシックな料理法ではなく、地元の素晴らしい素材を活かしながら、若いシェフたちが旅をしつつ見てきた世界中のフレーバーを織り込み、見たこともない料理を作っていく。
それまでの料理界との違いのひとつは、オープンな文化であること。料理人同士が知識や技術を共有し合うことで、地域全体でレベルを急激に高めていったのがヌエバ・コッシーナの特徴です。
「近所の店に負けたくない」と思うなら、ノウハウを独り占めするのが手っ取り早いですが、長期的には、別の地域にもっと美味しいお店ができたらお客さんは流れてしまいます。
サンセバスチャンの料理人たちは地域全体でレベルを上げることで、「サンセバスチャンに来る観光客」を維持し続けている。スペインの観光戦略の成功の特徴のひとつは、「リピーターが多いこと」にあるそうです。
環境や食材が時代を経て変化する中で、料理も本来それに沿って変わるのが自然とも言えます。例えば日本のお寿司で言えば、原価は上がり続け、ネタの質も確保するのが困難になってきているとも聞きますが、それならば料理の形、提供の形を変えよう!と柔軟に考えるのがヌエバ・コッシーナの真髄です。
最初に著者名を見て失礼ながら「ハイパーメディアクリエイター」という肩書きのイメージしかなかったので半信半疑で購入したのですけど、人脈ドヤりがちょっとはあるものの、硬派で大変勉強になる一冊でした。
料理人にできること: 美食の聖地サンセバスチャンからの伝言(柴田書店) - 深谷宏治
バスク地方に料理学校を作ってヌエバ・コッシーナを牽引したキーマンのルイス・イリサールさんという方がいらっしゃるのですけど、その方の下で修行した日本人シェフ深谷宏治さんによる著書。
高城さんの本にもルイス・イリサールさんの名前は出てきて、今回僕が予約していた3つ星レストラン「AKELARE」のペドロ・スビハナシェフの師匠と書かれていて気になっていたのですけど、深谷さんの著書は冒頭からルイス・イリサールさんからのメッセージで始まったので驚きました。
内容は、僕の人生のバイブルのひとつであるコート・ドールの斉須政雄シェフの自伝「調理場という戦場」にも近い料理人の青春の記録なのですけど、こちらはヌエバ・コッシーナの考え方やバルの文化が血と流れたシェフの思いが詰まった1冊で、より「これからの料理、外食産業」を考える上でのヒントが散りばめられていたように感じました。
石原さとみのすっぴん旅inスペイン ~世界一おいしい街で見せた女優の素顔~(フジテレビ系)
2019年に放送された旅番組で、女優の石原さとみさんが若手女性ADさんとバスク地方を4日間にわたって巡った模様を記録したもの。
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奔放に地元の方と交流したり、欲しいと思ったものは大量にまとめ買いしたり、石原さとみさんがのびのび過ごされている様子を見ているだけでも気持ちのいいものがあるのですけど、バル巡りの案内人としてdancyu編集長の植野広生さんが登場し、レストラン「AKELARE」で食事し、本来一般人が入ることのできない現地の美食倶楽部に参加するなど、かなり見応えのある番組でした。
実際に石原さとみさんがベレー帽を大量購入していた帽子屋さんと「AKELARE」には僕も伺うことができたので、帰国後に番組を観返して2度、3度楽しむことができました。
まとめ
とても過ごしやすい街で、リピーターが多いといわれるのがよく分かる旅になりました。
客単価が1000円もいかなさそうな小さなバルでもカードで支払いができて、街中で迷っていると地元の方がすぐに声をかけてくれるなど、いい印象しか残らなかったです。高城さんの本にも、スペインの観光戦略として、「観光客をお客様扱いしないで、遠くからはるばる来た友達のように接する」「作られたエンターテイメントやわざとらしいおもてなしはありません」と書かれていたのが思い出されました。すごく自然に過ごしやすい。
そして進化し続ける地域だと思うので、いつかまた伺ったときに感じる変化も楽しみです。
また日本語の情報があまり充実していない地域への旅行というのが初めてだったので、そこも新鮮な感覚でした。またサンセバスチャンに行きたいと思うのと同じくらい、知らない街をもっと歩きたいという気持ちになりました。