久しぶりに「蛎殻町すぎた」さんへ。
電話の発信履歴が増えるばかりで気付いたら3年以上が過ぎていましたが、変わらず清潔感のある店内。
1組ずつ回ってきてくださるご主人の、「いらっしゃいまし」という挨拶も相変わらず。
ひろっこのお浸し。
恥ずかしながら「ひろっこ」って初めて聞いたのですけど、浅葱の若芽のことなのだそう。
雪を掘り起こして収穫される冬のお野菜。
ねぎ系のクセは少なくて、しゃきしゃきした歯触りと爽やかな風味はらっきょうにも近い気がします。
キンと冷えたお出汁が胃袋を起き上がらせます。
わさびがセットされて、おつまみがスタートします。
かわはぎ、ほたて。
「まだですよ、まだ食べないでください。言っても食べちゃう人がいるんです」と❝待て❞がかかります。
長崎のかわはぎ。
イメージより少し厚みがあって、口に入れるとさらにボリュームを感じるエアリーな質感。
旨みが強いのはもちろん、脂のミルキーな甘みも全体から溢れています。
「待て」がかかっていたのは、肝醤油のためでした。
溶かずに提供されるので、身で肝を包むようにしていただきます。
ほたては北海道の野付。
塩締めになっていますが「塩味が付いているというわけではありません」とのこと。
とても甘いのでわさびは気持ち多めに。
ここから怒涛のようにおつまみが続きます。
生牡蠣はおろし和え。
穴子白焼き。
ピンと平らに広げて焼かれた佇まいがまずお上品。
旨みと香りが抜群の味わいもお上品なのでわさびがなくても美味しくいただけるのですけど、シンプルにわさびが美味しくて穴子の良さが2回りも3回りもボリュームを増す感じ。
白子ポン酢。
この時期は色んなお店で登場する冬の味覚ですけど、この冬はいただく機会がやっぱり少なかったですねえ。
まったりして濃厚な白子と、そこを突き抜けるポン酢の酸味。
「すぎた」さんの定番のつまみ2種。
干し数の子の味噌漬け。
ぽりぽりっと小気味良い食感に、ちょっと甘みのある味噌漬け。
あん肝。
甘く炊いた味付けに、わさびの香りがアクセント。
まながつお幽庵焼き。
添えられているのは胡瓜の胡麻和え。
波打つ身に細かく入った包丁の美しいこと。
皮目はパキパキ、身は脂がじゅわじゅわ。
胡瓜の爽やかさはイメージできましたが、胡麻和えというのがまた意外な組み合わせで面白かったです。
ここで本来は握りに入るのですけど、もうちょっとつまみをということでもう1品いただきます。
鯖巻き。
ガリ、大葉、浅葱と鯖を海苔で巻いた巻物。
よく脂の乗った鯖なので「わさびをたっぷり付けてどうぞ」と案内されます。
指で持っただけで脂乗りが分かるようなやわらかな身質。
口の中で脂が溢れ出すのと一緒に酸味やら甘みやら、さらには海苔の香りまで炸裂します。
わさびも良きです。
ガリが出てきて握りがスタートの合図。
お弟子さんの新富町「鮨はしもと」さんのガリと比べると、甘さ控えめでキリッとした味わい。
小肌。
厚みがあって、ミルキーな脂が舌全体を包みます。
後口はさわやか。
真鯛。
皮目下がコリッと、しっとり馴染んだ白身はチーズのように濃厚な旨み。
しろあまだい。
昆布締めになっているのですけど、かなり深い締めで濃密にねっとり。
旨みも味濃い仕上がりでした。
序盤の3貫は段階を追って濃厚になる並び。
鰆。
身と脂がよく馴染んで、強い熟成系の旨み。
皮目は香ばしさ。
春子鯛。
厚みのあるみ、ちょっと酸の効いた味わいが身の味を引き立てます。
赤身漬け。
冬のまぐろらしい密度の濃い味で、ちょっと酸味も。
大とろ。
蛇腹の部位で、口に入れるとほろほろほぐれて、じんわり融けます。
鰯。
薄く切って重ねて握りに。
かなりの脂乗りですが、この握りだと軽やかな質感になりますね。
ここから終盤へ。
車海老。
表面付近はぱつっと火が入っている一方で、中はレアめのなまめかしい質感が残っている感じ。
甘さの強く出た海老でした。
金目鯛。
パキパキに炙られた皮目の香ばしさが、シャリとまたよく合うのですよね。
身は独特の風味と、強い甘み。
お椀はいつも通りのしじみなのですけど、いつもとの違いが説明されます。
何でも貝が砂を吐ききらなかったものがあるとかで、この日は全てしじみを取り除いて吸物だけでの提供でした。
純粋にお出汁だけ味わうお吸物というのも何だか新鮮で、ストレートにそのよさを感じられました。
続いて、「たくさん乗せて崩れやすいから急いで食べて」と言われたうに。
写真を撮らずにいただきました。
これは生クリームを使っているでしょ!とさえ思ってしまいそうなほどクリーミーですっきりした甘みの強いうにでした。
最後に穴子。
塩かツメか選べたので、今回は塩。
身の質感、味が前面に出た1貫でした。
〆の玉子。
深めに火が入って海老や魚の風味がガシッと香ってくる貫録の玉子焼きでした。
美味しいのは当然のことなのですけど、雰囲気やご主人の細かな動作、言葉ひとつひとつに魅了される時間でした。
これぞ最高峰だなあとただただ幸福感に包まれながら、ごちそう様でした!