この日はお久しぶりのお寿司屋さんへ。
「蛎殻町すぎた」さん。
暖簾の出ていない時間は表から見てお店の分かる看板はありませんが、目印は「レストラン・テキサス」です。
1番奥に着席。
マスクをしても変わらぬ大将の上品な「いらっしゃいまし」のご挨拶からスタートします。
茶豆。
夏の味。
まずは、あわびと平目から。
平目は定番の青森産。
朝締めなのに驚くほどにふっくら、ふわふわの質感に仕上がっています。
淡いけどしっかりと強い味。
あわび。
大将が見事な手さばきで薄く削ぎ切りにしていくのですけど、包丁を入れ始めた途端、店内をあわびの香りが支配していました。
ゼリーのようにはかない弾力。
穴子塩焼き。
あわびとはまた全く別方向に振り切ったいい香り。
身全体になじんだ脂と、皮目下でぶりりんと存在感を放つ脂。
すんっと落としどころのはっきりした脂の味わいは「わさびなんて必要としないな」と思わせるのですけど、実際にはわさびそのものが香り、食味ともに抜群で、穴子のマイナス面を埋めるわけではなくただただ相乗効果を生む要素としてこの上ないマッチングでした。
定番の鯖巻き。
三重産の鯖、浅葱、大葉、ガリをシャリなしで海苔巻きにしてあります。
鯖の脂の乗り方というと全体に支脈のように行きわたっているものもありますが、こちらははっきりくっきりと腹身に重点的に集まっているように感じられました。
じゅわりと浸み出す脂とそれを吸い、浸み渡る海苔の美味しさ。
続いて茶碗蒸し。
「すぎた」さんで茶碗蒸しは比較的稀な気がします。
金目鯛の茶碗蒸し、酢の酸を効かせた餡がかかっています。
金目鯛のお出汁というと結構脂の甘みが特徴的な気がするのですけど、茶碗蒸しにすると甘みがやや後退する分、強く強く旨みを感じる仕上がりでした。
金華ハムとかに近いかも。
鮟肝。
普段は新政などの日本酒ひと口と一緒に提供する定番つまみですが、今回は単品での提供。
甘い味付けが特徴的で、つんと香るわさびが名コントラスト。
焼き物は太刀魚。
半身でこの厚みなので、なかなかのサイズ感なのではないかと思われます。
太刀魚の脂は火を入れてなんぼと再認識させられる、特筆すべき味の良さ。
脂に結構重みがあるので、途中からすだちをギュッと搾るとがらっと印象を変えることができます。
ガリが出たら握りスタートの合図です。
佐賀の新子。
1貫目に小肌を出すのがお決まりになっている「すぎた」さんですが、この時期ですから新子から始まります。
大分大きくなって2枚付け。
食べた印象は、新子らしいというよりはかなり小肌に近くなった感じで、身の味わい、香りを強く感じられる1貫でした。
淡路島の真鯛。
「すぎた」さんが移転する前の「都寿司」さんだった時代に初訪問して、なぜだか個人的に1番印象に残ったネタが真鯛だったのですよね。
つまみの最初の平目もそうですけど、よく食べる食材でありながら、奇を衒うわけでもなく見せつけられるその「違い」というか「差」が圧巻なのですよね。
青森の平目昆布締め。
珍しく深く締めてみたということで、「ほとんど昆布です」と言って出されました。
口に入れるとねっとりとして舌触りで、確かに目を見開いてしまうほどの昆布の香り。
浜田の鯵。
島根県浜田市の鯵といえば「どんちっちアジ」というブランド物が有名ですが、こちらはどんちっちではないそう。
比較的歯応えのしっかりした鯵で、いい香り。
春子鯛。
小さな魚のイメージがありますけど、肉厚でもっちりした食感。
噴火湾の赤身漬け。
今回の漬け時間は2分とのこと。
見た目より表面近くはしっかりとけ出していてねっとりした質感で、淡いまぐろの風味を補うように一体になって印象を膨らませるような漬けダレの味が秀逸。
噴火湾の中とろ。
手前側はよく脂が乗っていますが、グラデーションがくっきりしていて向こうの方は結構派手にあざやかな赤身。
全体の印象としては赤身の旨みがベースで、後から脂の甘みが乗ってくるような1貫でした。
かわいい色と柄だったお湯呑み。
佐賀の小肌。
新子と打って変わってかなりサイズの大きな小肌。
厚みがあって、「脂の乗った魚」という印象が前面に出ているのが新鮮でした。
銚子の鰯。
薄く削ぎ切りに重ねて握った鰯。
かなりの脂乗りで、てろっと一瞬で融け出します。
山口・宇部の車海老。
なぜか海老だけ横向きに提供。
色ハリツヤ抜群の火入れで、ばっつばっつに弾ける身とほどけるシャリ、甘みと旨みと甘みと酸味。
エゾバフンウニ。
塩キャラメルのように濃厚なコクと甘みで、ちゅるんととろけます
お椀。
コースはこの後穴子と玉子で終了ですが、ちびちびとお椀をいただきながら、この日まだ出していないネタを聞いて追加のネタを品定めします。
三重の鯖。
鯖巻きのものとは別の鯖らしいですけど、同じ産地なので質感は近いのだと思います。
背中側にもしっかり脂が行きわたっていますが、腹身のそれはまた一段と抜きん出た脂乗りになっています。
淡路島の真鯛。
やっぱり真鯛が好きなのでおかわりでもう1貫。
先ほどは腹身でしたが今度は背中。
コリッとした弾力と、身の旨みと皮下の脂身のコントラストのくっきりした味わいがとてもよかったです。
ホッキ。
コースに入っていなかったので、定番の貝もいただいておきます。
やわらかな身質で、落ち着いた甘みとここにきてなお食欲を誘う香り。
穴子は塩で。
塩気でふんわり引き立つ穴子の甘み。
ツメと塩と選べるお店は多いですし、ツメの方がお店の個性が出るよなあと思いつつ、味の好み的には塩が好きなので大抵塩ばかり頼んでしまうのですよね。
玉子。
ふかふかで、少しとろっと。
甘みと香ばしさの立つ絶妙な火入れでした。
時期が時期だけに最初は全員完全に無言だったりしたのですけど、食べ終わる頃には謎の一体感の生まれた辺りが杉田さんマジックでした。
素敵な時間を過ごして大満足で、ごちそう様でした!