お店選びを任されたとき、行ったことのあるお気に入りのお店にするか、行ったことのない気になっていたお店にするかで迷うことがあるのですけど、大体散々悩んだ結果前者を選びます。
だから行くお店が偏るんだよな〜と思いつつ、この日は表参道付近でディナーのお店選びを任されたので、候補を大量に挙げた中から、結局一番よくお邪魔してきた「ラチュレ」さんへ。
とはいえディナーでの訪問は初めて。
ランチだけでそのお店を知った気になってはいけない、とはよく言われたもので、そういう意味でもこの日は楽しみにしてまいりました。
ウニのタルト。
まずはフィンガーフードのアミューズから。
ウニの上に削ったコンテチーズ、ウニの下に青さの風味の油、クリームチーズ。
クリームチーズも結構存在感はあるのですけど、ウニの風味が圧倒的で、他がそれを盛り立てるようなバランスでした。
いくらと山羊のミルクのブランマンジェ。
目の前で貴腐ワインを注いでいただいて完成します。
貴腐ワインとは、糖度の高い貴腐ブドウを原料に作った甘口のワイン。
いくらとブランマンジェは食べたことのない組み合わせ。
山羊のミルク特有の酸味と深いコク、そこに貴腐ワインの甘味が加わることで贅沢至極な味わいに仕上がっています。
いくらは食感の楽しさに加えて、魚介の旨みのある食材だということも改めて感じることができました。
見た目の印象をさらに上回る華やかな1皿でした。
マッシュルームのポタージュ。
割れた卵の殻をかたどった可愛らしいおもちゃのような器で出てきました。
中にはさらにいのししのベーコン、クルトン、うずらの半熟卵黄。
きのこ、卵黄、いのしし、と方向性の違う旨みが、あくまでもまろやかな口当たりのポタージュの中で静かに拳をぶつけ合うような味わい。
穏やかな中にインパクトのあるスープでした。
器を置く台は鳥の形で、卵を背負っているような形に。
それぞれ提供される鳥の形が違っているところも可笑しかったです。
鳥の形というと、「ラチュレ」さんのバターナイフもそう。
木製の鳥の尻尾の部分がバターナイフになっているのですよねえ。
自家製のパン。
そのままで食べても、鳥の尻尾でバターを付けてももちろん美味しくいただけますが、ここからのお皿のソースへの期待も高まります。
一口サイズのお料理が8点並べられた大皿が登場。
そういうお料理かと思いきや……、
中央に鮮やかなスープが注がれました。
というわけでお次の料理は、ガスパチョでした。
ノドグロのグリル、フロマージュブラン。
一口でも食べ応えのある脂乗りのノドグロは皮目をカリッと香ばしく焼き上げて、下に敷いたフロマージュブランで余韻をさっぱりとさせた1品。
茄子のビネガーマリネ。
華やかな酸味と、茄子独特のジューシーで素朴な質感。
白きゅうりの浅漬け。
見慣れないすっきりとした白さのきゅうりですが、食べるとがっつりストレートにお漬け物感。
玉ねぎのグリル、ネギ油。
意外に1番見た目が綺麗だったのはこちらかも。
パールオニオンの甘み、見た目の可愛らしさとギャップのある中華のようなネギ油の香り。
パプリカのグリル、鰹節に見立てた乾燥鹿肉。
パプリカの独特の香りのある甘みと、見た目以上に肉を感じる鹿の旨み。
ジュドベベという名前のトマト。
「赤ちゃんのほっぺ」という意味で、ツヤがあり透き通るような赤色と大きな粒、さらに薄い皮と強い甘みが特徴とのこと。
これだけ盛り込まれたお皿の中で、トマトの味だけで存在感のある映えのある味でした。
ガスパチョを分解したパーツのようなお料理が並ぶ中、ガスパチョをソースにノドグロをいただくトリッキーな魚料理のような印象の1皿でした。
味の要素が多くて楽しかったです。
沖縄県産・クジャクのパテアンクルート。
と、サラッと言われましたが、クジャクって食べられるんですね……。
梨やいちじくのジャムと合わせながらいただきます。
クジャク肉のパテ部分は特別変わった風味というようにも感じませんでしたが、クセのないいい味。
こちらのパテアンクルートはコンソメのゼリーとフォアグラの層が毎度素晴らしい出来なので、それだけでいつも安定の大満足なのですよね。
おかわりしたくなる美味さでした。
続いてパイ包み焼きが運ばれてきます。
た、食べ切れるか……と心配になりましたが、これは1人分ではないそう。
そう言われると1人で食べてみたかった気がしてくるのが、人というもの。
少し待っているとカットされて運ばれてきました。
鮎のパイ包み。
鮎は身だけを使って、ホタテと川海苔の生地、パイで包んで焼き上げてあります。
鮎といえば肝 苦み 鮎の繊細さが消える ブールブランソース つるむらさき
野菜はつるむらさき。
ほんのり粘りと青みの強い独特な香り。
ソースは、鮎の風味が引き立つまろやかでコク深いブールブランソースでした。
鮎といえば肝、みたいなところがありますが、シェフは「苦みで身の繊細なよさが隠れてしまう」と考え、あえて身のみを使ったそう。
確かにあまり取り立てて感じたことのなかった、ほわんほわんにやわらかい鮎の身の質感を前面に堪能することができた気がします。
ホタテ、川海苔の風味も主張が強すぎずいい感じ。
メインは3種類の選択肢がありましたが、追加料金で猪肉に。
他に追加料金なしで鴨、鹿がありました。
ソースは粘度の強めなマデラ酒のソース。
ボディの強い風味の甘み。
猪肉といえば濃厚な脂のイメージですが、寒くなる前のこの時期は「軽やか」とのこと。
確かに、そこそこ分厚く付いている割にくどさや重さは全く感じない脂身でした。
噛み応え抜群。
トリュフも散らして、贅沢な陸の味を満喫できました。
デザートはスープドメロン。
……といってもスープが見えていません。
茨城県産アールスメロン ディル 八女茶のアイス柚子胡椒 ヨーグルトのエスプーマ
真ん中の緑色のホワイトチョコボールを割ると中からメロンスープが出てくるスタイルになっていました。
メロンは甘味の強い茨城県産アールスメロンで、ディルでマリネしてあります。
ディルって風味がかなり強いので支配的になりすぎるイメージがあったのですけど、メロンもなかなか香りが強くてディルを上回った主張のあったところが印象的でした。
他、柚子胡椒風味の八女茶のアイス、ヨーグルトのエスプーマ。
猪と鹿の脂のフィナンシェ。
お茶菓子は定番のジビエの脂を使ったフィナンシェ。
前菜にも猪が登場していたので、メインも猪を選んだことで、終始猪コースのようなイメージでいただくことができました。
ハーブティー。
お昼もジビエの旨みの強さや、シェフがこだわりを持って選んだ野菜のよさを最大限に引き出した調理で提供していただけるお店でしたが、夜はやはり演出はもちろんひとつひとつの調理の緻密さが何段階か上だなあと感じました。
今回はお肉はもちろんですが、鮎の出し方がとても印象的で、改めて「食材と向き合う」ということを教えてもらえるディナーだったように思います。
またディナーで伺いたいなと気持ちを強めつつ、ごちそう様でした!