僕がブログを始めた10数年前は、恐らくまだ飲食店で料理の写真を撮る人はごく少数派で、お店の方に「写真を撮ってもいいですか?」と聞くと「ブログでもやってるんですか?」などと物珍しそうに聞き返されたものでした。
そこから次第に決まり文句のように「SNSか何かに載せるんですか?」になり、もはやこれと言って何も加えず「どうぞー」と言われるようになり、時は流れて今や写真撮影の確認なんて怪訝そうに「え?」と聞き返されるところまで来ております。
(今回は本文とは関係なく、お肉の写真と共にお送りします)
そんな最近気になっているお話。
先日カフェで過ごしていたら、お店の奥の席にいた3人組が「僕たちあっちで大丈夫ですよ」と店員さんに言って、店先の半テラスみたいなテーブル席に移っていたというところから話は始まります。
一応詳細を記すと、3人組は男性2人と女性1人で、いずれも若く、モデルさんかと思われるほどバチバチに着飾っている方たちです。
移った先の半テラス席は一応屋内ではあるものの、壁がなく直接路面に面して開けていて、確かに人によっては避けたいであろうロケーション。3人は、ちょうどその席に案内されそうだった女性グループの方々や、対応した店員さんから感謝の言葉をかけられながら、自ら荷物やお冷を持って移動していました。
僕は「若いのに気の利く方たちだなあ」と思って横目に見ていたのですけど、彼らの注文したアイスとジュースが届いたところから少しばかり印象が変わります。
彼らは立ち上がってお冷やカトラリーを椅子の上に降ろし、アイスとジュースをテーブル上で入念にセッティングして写真を撮り始めたのです。
僕は最初こそ「インスタを頑張っている方たちなんだな」くらいに思っていましたが、3人とも立ち上がったままベストのアングルや机の上の配置を探りながら延々と撮り続けていらっしゃるので、ついつい興味深く意識をそちらに向けてしまいました。
ちょっとびっくりしたのは、ひとしきり写真を撮った後のこと。1人が椅子に腰掛けたので、食べるのかと思ったのですけど、他の2人が構えるカメラに向けてポーズを決めてみせ始めたことでした。
交替で"モデル"を務めた後は、1人が"手タレ"として手だけ写り込ませたカットまで撮影していました。
立ったり歩き回ったりを繰り返していましたし、僕も写り込んでいそうなアングルでもパシャパシャ写真を撮られたのもあってびっくりはしましたが、我が身に立ち返ってみれば"料理の写真を撮らない人"からすれば、飲食店で必ずと言っていいほど写真を撮る僕もおかしな存在だよなと気付かされたところがありました。また10年前に白い目でこっちを見ていた方たちはこんな風にびっくりしていたのかもしれないなと思ったりもしました。
それで納得して終わりにすればいいものの、僕も底意地の悪いところがあるので、店名や何やらで検索して彼らのアカウントをみつけ出したわけですね。性格の悪い感じが出ますね。
案の定例えばそのうちの1人のアカウントは「オシャレなカフェと映えスイーツ」がアカウント名に入っていて、同一ユーザーの別垢は「カフェとコーデ」を紹介するものでした。先のお店はジュースのグラスが「かわちぃ」のだそうです。
そして大事なことを付け加えると、この数ヶ月、似たようなことをいくつかのお店で見かけたので、「そういうトレンドがあるのかな」と思い始めたのです。
で、ここからが本題なのですが。
彼らのプロフィールの中に、主なジャンルのひとつとして「無機質カフェ」というワードが入っていたんです。
少し前からよく目にするけど、正確な意味合いは知らなかったので、いい機会だと思って検索してみました。
いくつかの記事に目を通してざっくり定義を整理すると「コンクリート打ちっぱなしの壁やステンレスの机やトレーなどシンプルな内装で、従来のくつろぎ空間としてのカフェとは対照的に冷たい印象の空間になっているカフェ」といったイメージのようです。
さらに気になった記述は以下です。
冷たい空間がむしろ、“自分映え”する場所だと話題になっています。
Z世代のトレンド「Y2Kファッション」(2000年代に流行したファッション)は、無機質カフェで撮ることでより映えると言われていたりします。
(カフェはお茶する場所でなく“撮影空間”? 韓国発・モノトーン&シンプルな「無機質カフェ」とは | ラジトピ ラジオ関西トピックス)
何となくこの辺の話は目にしたことがあるような気がしていましたが、今回の出来事と合わせて改めて読んで実感したことは、すっかり「映えスイーツを撮る空間」となりつつあると思っていたカフェのありようが、さらに変化して「自分が映える空間」になろうとしているのだなということでした。
最近の若い人は、年長者が「お茶しよう」と言ってカフェでコーヒーを注文する文化が理解できないそうですが、今時の「お茶しよう」は「写真を撮り合おう」に近いのかもしれません。
あのお店が無機質カフェだったのだとしたら、むしろ彼らのあり方こそが正解だったのでしょう。
僕が上述のような場面を見かけたのは、必ずしも「無機質カフェ」を自認しているお店というわけではなさそうだったので、そういう楽しみ方自体が「無機質カフェ」の外へじわじわと広がりつつあるということなのかなと感じた次第です。
この10年ほどで「料理の写真を撮る」がかなり一般的になったことを考えると、10年後はどうなっているだろうかと思いを馳せつつ、オシャレカフェと淡色コーデを興味深く見守ってまいりたいと思います。