昨年オープンして話題になっていた昆虫食を取り入れたお料理を提供するお店「ANTCICADA(アントシカダ)」さんへ。
金曜の夜、土曜の昼・夜にコース料理、日曜の昼・夜にコオロギラーメンを提供されているようです。
今回はコース料理のタイミングでの訪問。
結論からいって、見た目には昆虫と分からない状態になっている料理がほとんどでしたが、2品ははっきりとそのまんま昆虫のビジュアルが残っていました。
なので今回の記事は虫が苦手な方はスルーされた方がいいかもしれません。
外壁にお店のロゴがあしらわれているので気付くことができましたが、「本当にこんなところにあるのか…?」としばらくさまよってしまうくらいにはひっそりとした立地にありました。
頭文字のAに乗せた虫感。
右の通路を入ってすぐ左に入口がありました。
念のためもう一度書いておきますが、虫が苦手だという方は引き返すなら今です。
引き返すなら!今です!
いきます!
ようこそ~スナック。
コオロギを粉末にして作ったというコオロギチップス。
いきなり「コオロギ100%です」というパワーのあるワードが聞こえてきます。
海老せんみたいな食感ですが、それほど特徴的な香りがするというわけでもなく、ほんのり香ばしいチップスです。
マッシュルームや唐辛子をパウダーにしたものをかけてあるとのこと。
それなりに身構えてここまでやってきましたが、素朴に美味しいという予想外に穏やかな気持ちでスタートしました。
珈琲茉莉花茶。
お料理にはすべてペアリングでドリンクがつくようでした。
最初はジャスミンティーをドリップして抽出したというコーヒー。
コーヒーというよりは麦茶みたいな調子の香ばしさで、後からジャスミンティーの香りが追いかけてきます。
心太、イナゴ醤、ラベンダー、パセリからし。
ひと言で言うなればラベンダーの心太です。
イナゴ醤で味付けしたという酢醤油味ですが、それ以上にインパクトのあるラベンダーの香り。
味付けが爆発的にフルーティーさへ振れています。
すごく美味しい。
甘エビと鰹節の出汁 エビ油と梅干し。
海老が前面に出ていて、酸味と旨みが下支え。
海老濃い。
パニプリ~メロン、自家製酢橘胡椒。
パニプリというのはネパールやインドで食べられるお菓子で、左の球状の揚げクラッカーに右のメロンジュースをなみなみと注いでひと口で食べるのだとのこと。
クラッカーボールの中には、白いんげんをマッシュしたポテサラみたいなものが入っています。
ここに液体を入れるのは結構腰が引けますが、ザザッと注いでひょいっと口に運びます。
メロンの風味がとても濃厚で重みのあるメロンシロップ。
ここに白いんげんの淡白な味わい、酢橘胡椒の尖った風味が合わさります。
独特!
そもそも初めていただくお料理なので正解が分かりませんでしたが、パッと一瞬で弾けるように味わえる楽しい1品だったと思います。
ドリンクはフルーツとハーブのサイダー。
りんごとぶどうジュースに、ミントなどのハーブを香らせてあります。
めちゃめちゃ華やかでさわやかな香り。
ラベンダーのコンブチャ。
昆布茶ではなく発酵飲料の方のコンブチャ。
さわやかで華やかなラベンダーの香りと、ローゼルの酸味。
渓流~ザザムシ、ザリガニ、秋野菜。
ザザムシはクリームソースにして、ザリガニはワンタンで包んであります。
クリームソースは、バターが効いてチーズのような旨みの強いコクを感じるもの。
ザザムシの粒々した食感が残っているのがポイント。
ザリガニのワンタンは、海老に比べるとやさしい弾力。
風味も穏やかで、クリームソースの濃厚な風味が勝っている印象でした。
野菜はたっぷりのハーブの他、ズッキーニ、ミョウガ、里芋、マコモタケなど。
里芋とマコモタケ辺りの食感や味わいがちょっと変化球っぽくて印象的でした。
野菜はかなり土気を感じるナチュラルな味わいで、クリームソースは極めて濃厚。
そこに欠けたピースである酸味をドリンクでバシッとハメてきていて、ペアリングで完成された感じのする1皿でした。
セミの気持ち。
特注だという木の幹を模した器。
3か所開いた穴のうち、2か所はストローを挿し込んでそれぞれ別のドリンクを味わうことができる仕組みになっています。
セミの気持ちを感じるというコンセプト。
1か所ハズレがあるというのも面白いです。
1つ目の穴には桃ジュースで、粒マスタードを合わせてありました。
2つ目の穴はすいかジュースでハイビスカスティーをブレンド。
どちらもフルーツにはない感じの酸味が加わっていたのですけど、何の味か判別するには至らない程度の風味感。
草花東方美人。
押しの強い旨みを感じるお茶です。
東方美人は製造工程の中で、虫に食われることに大きな意味があるのだとか。
ここにも虫が関わってきています。
鯰、焦がしパプリカ、ヘーゼルナッツ、コオロギビネガー。
魚料理は川魚。
鯰は千葉県・霞ヶ浦とのこと。
細かく包丁を入れてふわふわというか、独特の弾力が出た鯰。
パプリカのソースはかなりしっかり甘くて、香ばしさをまとったコオロギビネガーを合わせてあります。
淡白なお魚を使いながら、かなりインパクトのある1皿でした。
烤鶉蚕醤~うずら、蚕醤、青ほおずき。
北京ダックのように焼き上げられたうずら。
フォークやナイフはそもそも提供されず、手づかみで食べるように説明があります。
潔いです。
バリバリの皮目の下に、むちむちでしっとりした身。
「骨まで全部食べられます」という紹介があったので、何の気なしに全て平らげたのですけど、食べ終わって気が付いたら他のお客さんのお皿には骨の山が出来ていたので、実際に全部食べましょうというものではなかったのかもしれません。
青ほおずき。
初夏のミニトマトみたいな質感ですが、ほんのり甘み。
ノンアルコールスイートベルモット ロッソ。
1品前の東方美人はお肉にも合うということで残しておくように指示がありましたが、全く趣の違うこちらの1杯も交互に合わせていただきました。
高野食品のみき。
奄美大島伝統のお米とさつまいもを発酵させた飲料だそうで、濃厚さでいうと甘酒みたいな感じなのですけど、甘さだけではなくてほどよくフルーティーな酸味などに味わいが分散しているイメージ。
ごくごく飲めてしまう飲みやすさのある1杯でした。
これまでとこれから~コオロギ。
日曜日に提供するコオロギラーメンは昆布や椎茸の出汁も一部利用して味を調えているそうですが、こちらは100%コオロギ出汁とのこと。
1杯のラーメンとしての味で考えるなら昆布や椎茸を合わせた方がバランスが取れているそうですが、コース料理の1品として多少味の偏りに目をつむれるこちらはコオロギ100%にしてみたのだそうです。
季節の岩手県産松茸を炙って載せてくださいました。
お出汁の味付けにはコオロギ醤、麺にもコオロギの粉末が混ぜ込まれているそうで、限りなくコオロギ度を高めた仕上がり。
クセはなくて、香ばしさも際立ちすぎず、穏やかな旨みを感じる渋い1杯でした。
炙って水分の抜けた松茸がモショモショと独特の食感で面白かったです。
確かにコオロギ100%ということでやや味が平板といえば平板に感じるところもありましたが、好みの問題で個人的には落ち着いた味でかなりいい味だと思いました。
メーカーごとで使い分けているコオロギ。
フェモラートオオモモブトハムシ。
アヴァンデセールでひと口。
お口直し的な位置づけな気がしますが、この1品が1番虫感が強烈というか、「虫を食べる」という感覚が壮絶でした。
梅ジュレの中に、いわゆる幼虫が鎮座。
かなり力を込めてぶちゅっと噛み切ると、ほんのり杏仁のような甘い香りがするかな?という感じのところから、じわじわ強まってはっきりと杏仁風味の後口になりました。
「なぜか杏仁の味がする」とのこと。
下敷きになっている木の中に幼虫が住んでいたということで、お店の方たちが実際に廃材?の山から採集してきたのだそうです。
長野園 SASHIMA CRAFT TEA K1。
最後はシンプルに国産の紅茶。
軽やかで華やかな香り。
イチジク、発酵薔薇、かいこのふん、ヨーグルト。
見た目は薔薇色のソルベが印象的な、華のあるデセールという感じでしたが、ここにも「かいこのふん」が使われているという…!
発酵薔薇のソルベは実際に花びらも入っているようで食感もしっかり感じるもの。
淡白な水切りヨーグルトとキャラメリゼしたイチジク。
黒蜜のように底に溜まっているシロップにかいこのふんが使われているそうでした。
仕上げに欠けられたグリセルがかなり強烈で、「甘みを引き立てる」を超えて塩気をはっきり感じるような味のバランスでした。
全くもって書ききれないくらい大量の情報量で、終始わくわくさせられながらいただいたお料理の数々でした。
そして頭でっかちにならず全部「美味しい」と分かりやすく感じられるコースだったと思います。
また別の日に行けば全く違ったお料理をいただけるのが楽しみではありつつ、また今回のお料理もいただいてみたいくらいの魅力に名残惜しさを感じつつ、またお邪魔したいなと思いながらごちそう様でした!